「反省は早すぎると、学びにならない。」
試合が終わったあと、「すぐに振り返った方が成長につながる」と考えられることは少なくありません。
しかし、心理学や教育学の研究では、振り返りのタイミングや進め方を誤ると、学習効果が下がることが示されています。
本コラムでは、海外の研究をもとに、試合後の振り返りを“本当の学び”に変えるための考え方を整理します。
試合直後に「反省」がうまくいかない理由
試合直後の選手は、悔しさ、落胆、興奮など、感情が大きく揺れている状態にあります。
感情調整理(Emotion Regulation)の研究では、強い感情状態の最中は、情報処理や冷静な判断、メタ認知(自分を客観視する力)が低下しやすいことが示されています。
つまり、試合直後は、「学ぶ準備が整っていない時間帯」である可能性が高いのです。
この状態で技術的・戦術的な反省を行っても、
- 自己批判が強まる
- 内容が感情に引っ張られる
- 本来の課題が見えにくくなる
といったことが起こりやすくなります。
振り返りは「誰が主役」かで効果が変わる
自己調整理論(Self-Regulated Learning)の研究では、
自分で課題を見つけ、自分の言葉で整理する学習が、最も深い理解につながるとされています。
反対に、
- 大人が先に答えを出す
- ミスや改善点を一方的に指摘する
こうした振り返りは、短期的には分かった気になっても、長期的な学習効果は高まりにくいとされています。
重要なのは、振り返りの主役は、常に選手本人であること。保護者やコーチの役割は、「答えを教えること」ではなく、「考える土台を整えること」です。
試合動画の振り返りは「条件付きで有効」
近年、試合動画を見返すことは一般的になってきました。
運動学習やスポーツ心理学の研究でも、目的を持った映像レビューが、技術理解や戦術理解を助けることが示されています。
一方で研究は、次の点も指摘しています。
- ただ何となく動画を見る
- ミス場面だけを繰り返し確認する
- 大人が横から解説し続ける
こうした使い方では、学習効果は限定的、場合によっては自己批判を強めてしまうこともあります。
動画はあくまで「教材」です。
問いがなければ、学びは生まれにくいという点が、研究からも示唆されています。
研究が示す「効果的な振り返りの条件」
複数の研究を整理すると、効果的な振り返りには共通点があります。
■効果的な振り返りの条件
① タイミング
感情が落ち着いたあと(数時間後〜翌日)
② 主体
選手本人が考え、言葉にする
③ 量
一度に扱うポイントは1〜2点まで
運動学習研究では、注意を向ける焦点が多すぎると、理解や定着が浅くなることが示唆されています。
「全部反省する」のではなく、「一つだけ深く考える」ことが、結果的に成長につながります。
明日から使える、試合後の振り返りテンプレ
ここでは研究の枠組みから外れない形で、実践しやすい流れを紹介します。
■試合後の振り返りの流れ
① まずは良かった点を一つ
「今日、うまくいったことは何だった?」
② 次に、直したい点を一つだけ
「次の試合で一つ変えるとしたら?」
③ 動画を見るなら、場面を限定する
「この1ゲームだけを見て、何に気づいた?」
動画は“確認”ではなく、“気づきを得るため”に使うと効果的です。
この流れであれば、
感情を落ち着かせ → 自分で考え → 行動につなげる
という、研究が示す学習プロセスに沿った振り返りになります。
振り返りは「量」ではなく「質」
振り返りは、早ければいいわけでも、多ければいいわけでもありません。
研究が示しているのは、適切なタイミングと進め方があってこそ、学びになるという事実です。
試合後の時間を、「反省の場」にするのか、「成長のための学習の場」にするのか。
その違いは、振り返りのやり方一つで、大きく変わっていきます。
引用元
- Gross, J. J. (1998). The Emerging Field of Emotion Regulation. Review of General Psychology.
- Zimmerman, B. J. (2002). Becoming a Self-Regulated Learner. Theory Into Practice.
- Carson, H. J., & Collins, D. (2016). Reflective practice in sport. Routledge.

