「感じてはいけない感情はない。止まらずに戻ってこられることが、強さになる。」
前回は、ジュニアテニスの現場で使われがちな「メンタルが弱い」という言葉が、事実というより“決めつけ”として子どもに影響している可能性をお伝えしました。
では次に浮かぶ疑問は、「メンタルが強い」とは、いったい何なのかということです。
第2回となる今回は、研究や育成の考え方をもとに、ジュニア期に本当に大切にしたい「メンタルの強さ」を、あらためて整理していきます。
「メンタルが強い=折れない」は、もう古い
多くの保護者やコーチが、「メンタルが強い選手」と聞いて思い浮かべるのは、
- 泣かない
- 動じない
- ミスしても平気そう
- いつも前向き
といった姿かもしれません。
でも実は、心理学やスポーツ心理の分野では、こうした状態は「強さの定義」にはなっていません。
なぜなら、不安や緊張、弱気になる気持ちは、競技に真剣に向き合っていれば、誰にでも自然に生まれるものだからです。
大事な場面で何も感じないとしたら、それは「強い」のではなく、まだその重みを理解していないだけかもしれません。
感情は「消すもの」ではなく、「扱うもの」
心理学の研究では、不安や緊張を「感じてはいけないもの」「消すべきもの」として扱うほど、集中力や判断力が下がりやすいことが分かっています。
感情の扱い方を研究してきたジェームズ・グロスらは、感情を無理に抑え込むよりも、「今、自分は緊張している」と受け止めた方が、行動に戻りやすいことを示しています。
この考え方は「感情調整(エモーション・レギュレーション)」と呼ばれ、現在ではスポーツ心理の分野でも広く共有されています。
つまり、
- 不安がある
- 緊張している
- 少し弱気になっている
こうした状態そのものが、メンタルの弱さを表しているわけではありません。
問題になるのは、それを感じてはいけないと思い込み、プレーから離れてしまうことなのです。
トップ選手ほど、緊張を感じている
スポーツ心理の研究では、多くのトップアスリートが、試合前に強い緊張や不安を感じていることが報告されています。
重要なのは、彼らが「緊張しない選手」なのではなく、緊張を感じながらもプレーを続けているという点です。
不安があるから集中できないのではなく、不安がある状態で、どうラケットを振り、どう一球に向かうか。
この違いが、「メンタルが強い」と見られる選手を生んでいます。
メンタルの強さ=立て直す力
近年のスポーツ心理や教育の分野では、メンタルの強さは「折れない心」ではなく、「立て直せる力」として捉えられるようになってきました。
この考え方は「レジリエンス(回復力)」と呼ばれています。
- ミスをした
- 流れが悪くなった
- 気持ちが落ちた
そうした場面で、何も感じないことが理想なのではありません。
一度崩れても、
- 次のポイントに戻れる
- 構え直せる
- もう一度ラリーに入れる
こうした回復の早さこそが、競技の中で言う「メンタルの強さ」です。
ジュニア期は特に、この立て直す経験そのものが、将来の競技力につながっていきます。
「不安な自分」を受け入れられる子は、前に出られる
研究では、自分の感情を「良い・悪い」で判断するよりも、言葉として認識できる子どもの方が、行動への切り替えが早いことも示されています。
「緊張している」
「ちょっと怖い」
「自信がない」
そう感じている自分を否定せず、そのまま一歩前に出られること。
それが、ジュニア期に育てたいメンタルの姿です。
不安がないから前に出られるのではなく、不安があっても前に出られる。
そこに、本当の意味での強さがあります。
メンタルは「内側の力」ではなく、「関係の中」で育つ
もう一つ大切なのは、メンタルの強さを子ども一人の中だけの問題にしないことです。
ジュニア期のメンタルは、
- 試合後に、どう振り返られているか
- ミスしたとき、どんな表情を向けられるか
- 負けたとき、何を評価されているか
こうした周りとの関わりの中で形づくられていきます。
つまり、「強くしよう」とするより前に、強さが育つ関係性があるかどうかが重要なのです。
メンタルが強いとは、「感情を消す力」ではない
メンタルの強さとは、
- 不安にならないこと
- 緊張しないこと
- いつも前向きでいること
ではありません。
不安になってもいい。
弱気になってもいい。
緊張してもいい。
その感情を抱えたまま、プレーに戻ってこられること。行動を止めないこと。
それこそが、ジュニアテニスにおける「メンタルが強い」という状態です。
では、保護者やコーチは、日常のどんな場面で、どんな関わり方を選べばいいのか。
次回は、試合後の声かけや、感情が揺れたときの対応など、具体的な実践を取り上げていきます。
引用・参考文献
- Gross, J. J.(1998)
The Emerging Field of Emotion Regulation. Review of General Psychology. - Gross, J. J.(2015)
Emotion Regulation: Current Status and Future Prospects. Psychological Inquiry. - Yerkes, R. M., & Dodson, J. D.(1908)
The Relation of Strength of Stimulus to Rapidity of Habit-Formation. - レジリエンス(回復力)に関するスポーツ心理・発達心理分野の研究レビュー

