「強くする」のではなく、「戻れる環境」をつくる。
「メンタルが弱い」は、周囲の決めつけかもしれない。
「メンタルが強い」とは、崩れても戻る力かもしれない。
では、その“戻る力”は、どうすれば育つのでしょうか。
3回連載の最終回となる今回は、ジュニアテニスの現場で今日から実践できる、5つの具体的な関わり方を整理します。
① 試合直後は、「励ます」より先に「聞く」
試合が終わった直後、私たちはつい言ってしまいます。
「あそこでダブルフォルトは痛いな」
「あのゲーム、消極的だったね」
「タイブレーク、弱気だったよ」
良くなってほしいからこその言葉です。
しかしそのとき、子どもはまだ感情が大きく揺れている状態です。
悔しさ、怒り、情けなさ、混乱。
頭よりも先に、心がいっぱいになっています。
このタイミングで技術や戦術の話をすると、子どもの頭の中ではこう変換されやすいのです。
「やっぱり自分はダメなんだ」
だからこそ順番が大切です。
まずは、
「どうだった?」
「今、どんな気持ち?」
途中で評価せず、遮らず、最後まで聞く。
感情を吐き出せた子どもは、自然と落ち着いていきます。
そのうえで初めて共感が届きます。
実は心理学には「自己決定理論」という考え方があります。
研究者の Edward Deci と Richard Ryan は、子どもが前向きに立ち直るためには、「自分で語れること」「自分で意味づけできること」が重要だと示しました。
だからこそ、まず聞くことが大切なのです。
② どんな試合にも「良かった場面」を見つける
どんな試合でも、必ず一つは良い場面があります。
- 苦しい流れでも一本返したラリー
- ブレーク後に取り返そうとした姿勢
- 最後まで走りきったこと
結果ではなく、行動に目を向ける。
そして、
「今日、自分が良かったと思うところはどこ?」
と子ども自身に探させる。
スポーツ心理の研究でも、具体的な行動を評価された選手の方が、次の挑戦意欲が高まることが示されています。
「勝ったね」ではなく、「あの場面で逃げなかったね」と伝える。
それが、“戻れた経験”を自覚させます。
③ ミスのあと、顔で評価しない
ジュニア選手は、言葉以上に表情を見ています。
- 大きなため息
- 首を振る
- 無言の沈黙
それは「失望」として受け取られることがあります。
戻る力を育てるために必要なのは、大人の安定です。
- いつも通り
- 表情を変えすぎない
- 姿勢を見る
その一貫性が、子どもの安心になります。
④ 「すぐ助ける」より、「少し待つ」
崩れたとき、私たちは助けたくなります。
- すぐアドバイス
- すぐ解決策
- すぐ励ます
しかしそれでは、自分で戻る経験を積めません。
少し待つ。
少し任せる。
少し見守る。
その“間”が、回復力を育てます。
⑤ 弱さを出せる関係を、日頃からつくる
最後に、もっとも大切なこと。
「強くなれ」と言われるほど、子どもは弱さを隠そうとします。
不安を見せないようにする。
緊張していないふりをする。
弱気になっていない顔をする。
でも本当は、
- 不安になる
- 緊張する
- 弱気になる
それは、真剣だからこそ生まれる自然な感情です。
そして実は、弱さを感じられること自体が、強さの原動力でもあります。
怖いから準備する。
不安だから考える。
悔しいから練習する。
弱さは、前に進むエネルギーになります。
だからこそ大切なのは、「強くさせること」ではなく、弱さを言葉にしても大丈夫な関係を、日頃からつくること。
「今日は怖かった」
「自信がなかった」
「緊張して足が動かなかった」
そう言えたとき、
「そうか、怖かったんだな」
「それでも立ったのはすごいな」
と受け止めてもらえる関係。
弱さを否定されない経験を重ねた子どもは、弱さから逃げにくくなります。
そして、弱さを受け入れたうえで、もう一度ラケットを握る。
そこにこそ、本当の強さがあります。
強くするのではなく、戻れる環境をつくる。
3回にわたってお伝えしてきたのは、
- ラベルは子どもを縛ること
- 強さは戻る力であること
- その力は関係の中で育つこと
子どもは未完成です。だからこそ、伸びていきます。
不安も、緊張も、弱気も、すべて成長の途中です。
戻れる経験を奪わないこと。
それが、ジュニア期の本当のメンタル育成です。

