「試合は終わりじゃない。“次の成長”のスタートラインです。」
試合が続くと、親も子も「もう少し休ませた方がいいのかな」と悩むことがあります。
けれども、実は“試合の後”こそ、成長を進めるための大切な時間です。
ここでは、国内ジュニアから世界を目指す選手まで、試合を含めた「成長の波づくり」をわかりやすく整理してみましょう。
成長は「波」で進む。だから“周期”を持とう
アメリカのテニス科学者 Dr. Mark Kovacs(マーク・コバックス博士) と日本の研究者 越智聡氏(Shinichi Ochi, Ph.D.) は、著書『The Young Tennis Player』(Springer, 2016)の中で、「ジュニア選手の成長は、波のようなリズムをもって進む」と述べています。
上げて、少し休んで、また上げる——。
この“波”を意識して練習・試合・休養を計画することを「期分け(ピーリオダイゼーション)」と呼び、
成長期の体に最も効果的な方法とされています。
“試合を含めた12週間サイクル”で「波」をつくる
越智&コバックスの研究では、成長期の選手に最適なリズムは12週間(約3か月)ごと。
つまり、「練習→試合→休養→振り返り」を3か月単位で回すサイクルです。
12週間の基本パターン
- 1〜3週目:基礎づくり期
体の使い方やフォームを整え、体力のベースを上げる。 - 4週目:軽い週(アンロード)
練習量を減らし、疲労をリセット。 - 5〜7週目:試合準備期
実戦形式中心、短時間集中のトレーニング。 - 8週目:大会(ピーク期)
試合前は練習量を減らし、体を温存。 - 9週目:試合後の回復週(アクティブレスト)
軽い運動や水泳などで「動きながら休む」。 - 10〜12週目:振り返り+再スタート期
課題整理、測定、次サイクルの目標設定。
これを年に3〜4回まわすことで、成長のリズムを整えます。
国内ジュニアに多い「毎週試合」の時期は“週サイクル”で整える
日本のジュニア大会は、地域ごとに週末ごと開催されることも多く、
「試合が毎週続く」状況がしばしばあります。
このような時期は、「1週間=1つの波」と考える**週サイクル(ミニサイクル)**が有効です。
Ochi & Kovacs(2016)は、試合が多い選手ほど「1週間の中で強弱をつける」ことを勧めています。
週サイクルの例👇
| 曜日 | 内容 | 強度 |
|---|---|---|
| 月曜 | 試合明けの回復(ストレッチ・軽い運動) | ★☆☆ |
| 火曜 | テニス+短時間フィジカル | ★★☆ |
| 水曜 | 技術練習・フォーム修正 | ★★☆ |
| 木曜 | 試合形式(ポイント練習) | ★★★ |
| 金曜 | 軽い打ち込み・調整 | ★☆☆ |
| 土曜 | 試合 | ★★★ |
| 日曜 | 完全休養またはリカバリー運動 | ★☆☆ |
このように、週の中で「山と谷」をつくるだけでも、疲労が抜けやすく、パフォーマンスの波が安定します。
国際オリンピック委員会(IOC, Bergeron et al., 2024)も、
「若年選手ほど定期的な回復日を強制的に確保するべき」と提言しています。
世界レベルでは「試合を続けながら波を作る」ITFジュニア流サイクル
ITFジュニアツアーを回る選手たちは、1大会で5〜6試合、それが2週連続という過密スケジュールが珍しくありません。
このレベルでは、「試合の合間に回復を挟む」よりも、試合そのものを“波づくり”の一部に組み込む考え方が必要になります。
アメリカのコバックス博士(Ochi & Kovacs, 2016)は、
「国際大会では“休みを取る余裕”よりも、“試合中に回復を積み重ねる工夫”が鍵になる」と述べています。
ITFジュニア流の実践例👇
- 1試合ごとに“ミニ回復”を入れる:クーリングダウンやアイシング、食事補給を徹底。
- ナイトマッチ翌日は“軽い日”に設定:ウォームアップを減らし、試合自体を調整の場に。
- ダブルスを“体のリズム調整”に活用:シングルス中心選手は、疲労を考えてダブルスを出場調整に。
- 3週連戦の後は“フルリセット週”を確保:試合を休んで体を立て直す勇気も必要。
USTA(全米テニス協会)やオーストラリアの育成プログラムでも、
「試合をトレーニングと同等に扱い、“試合の中で波を作る”」という方針が共有されています。
試合が続くときほど、練習を“増やす”よりも“減らす勇気”が大切。
波を止めずに回す、それが世界で戦う選手の共通点です。
試合後48時間は“次の成長”のゴールデンタイム
国際オリンピック委員会(IOC, Bergeron et al., 2024)は、
「ジュニア選手は試合後48時間の回復を、成長計画の一部として設計すべき」と勧告しています。
- 試合直後(2時間以内):糖+たんぱく質を補給(例:おにぎり+牛乳)
- 24時間以内:入浴・ストレッチ・十分な睡眠
- 48時間以内:軽いジョグや遊びで“動きながら回復”
オーストラリアの研究(Turner et al., 2023)でも、
睡眠時間が短いと翌日の反応速度と集中力が低下することが示されています。
しっかり寝ることも立派な“次への準備”です。
「波」を意識すれば、焦らず・強くなれる
調子の波は悪いことではなく、成長のリズムそのものです。
国内では週サイクルで整え、世界では試合の中に波を見出す。
どのレベルでも共通するのは、“休む勇気”と“波を読む力”。
大会を「終わり」ではなく「次の区切り」として見ることで、
焦りのない、確かな成長サイクルが生まれます。
引用元
- Ochi, S. & Kovacs, M. S. (2016). Periodization and Recovery in the Young Tennis Athlete. In The Young Tennis Player, Springer.
- Bergeron, M. F. et al. (2024). IOC consensus statement on elite youth athletes, Br J Sports Med.
- Jayanthi, N. A. et al. (2020). Sport specialization and overuse injury risk in youth, Orthop J Sports Med.
- Saville, W. (2025). Peak Height Velocity (PHV), Science for Sport.
- Turner, M. et al. (2023). Sleep–wake behaviour and junior tennis match performance, Sleep and Vigilance.

