“勝つ心”よりも、“育つ心”をどう支えるか。
ギリシャ・デモクリトス大学の研究チーム(クリストス・ムルツィオス氏ら)は、11〜14歳のジュニアテニス選手の心理的特徴を調べ、男女の違いを明らかにしました(European Journal of Sport Sciences, 2024)。
対象はギリシャ国内のトップクラスに位置するジュニアたち。そこから見えてきた「強み」と「課題」は、一般ジュニアの育成にも大切なヒントを与えてくれます。
トップジュニアを対象にした“心の筋力テスト”
研究に参加したのは、ギリシャ国内ランキング上位の男女40名(11〜14歳)。
週に12時間以上の専門トレーニングを行い、全国大会に出場する選手たちです。
調査では、国際テニス連盟(ITF)のアンケートを用い、以下9つの“心のスキル”を評価しました。
- やる気(モチベーション)
- 戦う意志(ファイティングスピリット)
- 集中力
- 感情のコントロール
- 行動の安定
- 自信
- 試合前の心の準備
- 試合の流れをつかむ力
- 試合後の分析・学び
いわば、「テニスで成果を出すためのメンタルの筋トレ」を測るテストです。
女子の強みは“感情の安定”、課題は“自信の弱さ”
女子選手は、感情を落ち着かせる力や行動の安定が高く、プレー中に冷静でいられる傾向がありました。
また、「最後までやり抜く意欲」や「続けたいという気持ち」も強く、粘り強さが光ります。
一方で、「自信」や「試合前のメンタル準備」では男子より低く、試合の前に不安を感じやすいことも明らかになりました。
この“自己評価の低さ”は、特に思春期の女子選手ではよく見られる傾向です。
◎ 保護者・指導者へのヒント
女子選手には「できていないこと」より「できていること」に目を向け、小さな成功体験を積ませることが効果的です。
また、「どう感じている?」と気持ちを言葉にできる対話の時間を持つと、安心感と自己信頼が少しずつ育っていきます。
男子の強みは“集中力と自信”、課題は“感情コントロール”
男子選手は、試合に向けて気持ちを整える力や集中力、そして自信のスコアが高く、「試合の流れをつかむ力」にも優れていました。
ただし、「感情のコントロール」や「行動の安定」では女子より低く、イライラや焦りがプレーに影響する場面が見られました。
◎保護者・指導者へのヒント
男子選手には、感情を抑えさせるよりも、「どう切り替えるか」を一緒に考える習慣を育てることが大切です。
たとえば、ミスをしても「落ち着け!」ではなく、「どう立て直す?」という問いかけを。
感情を否定せず、使い方を学ぶサポートが、メンタルの成長を助けます。
一般ジュニアでは“基礎の心育て”が大切
この研究の対象は、すでに高い競技意識を持つトップ選手たち。
一方、クラブや地域でプレーする一般ジュニアでは、まず**「心の土台づくり」**が大切になります。
たとえば──
- ミスをしたときに「失敗してもいい」と思える環境をつくる
- 練習の目的を自分の言葉で言えるようにする
- 勝ち負けより「自分が成長したこと」に目を向ける
これは、まだ競技経験の浅い選手ほど大事なステップです。
メンタルの強さは、勝つための特別な力ではなく、**「自分を理解し、気持ちを整える力」**から育ちます。
“その子のペース”を見守ることが一番のサポート
研究チームは「心理的特徴は性別や年齢で異なるが、どの子も育つ力を持っている」とまとめています。
つまり、男女差を“固定的な違い”として捉えるのではなく、それぞれの成長段階に合わせた関わり方が鍵です。
「感情を見守る」「失敗を許す」「努力を認める」──。
そんな小さな積み重ねが、テニスにも人生にも通じる“本当のメンタルの強さ”を育てていきます。
引用元
Mourtzios, C., Athanailidis, I., Arvanitidou, V., & Mourtziou, M. A. (2024). Variation in Psychological Profiles of Young Tennis Players, Boys, and Girls Aged 11–14. European Journal of Sport Sciences, 3(1), 1–6. https://doi.org/10.24018/ejsport.2024.3.1.112

