毎日の一皿が、未来のプレーを変えていきます。
このシリーズでは、ITF・WTA・ATPの3団体が合同で発表した「テニス選手向けの実践栄養ガイドライン」 を元に、ジュニア選手に役立つ栄養のポイントを紹介しています。
第1回のテーマは「日常の食事」、“強いプレーは、日常の食事から生まれる”です。
テニスは長時間のラリー、急な予定変更、試合の連戦など、体への負担がとても大きいスポーツ。成長期ならなおさら、エネルギーも栄養素も、大人以上に必要になります。
今日は、そんな「毎日のごはん」がどれほど重要なのか、じっくり紐解いていきます。
テニスは「エネルギーの予測が難しい」スポーツ
ITF・WTA・ATPのガイドラインでは、テニスの特徴を“高強度・長時間・予定が読めない”スポーツだと説明しています。
まさにジュニアの試合は、何時間になるかは読めず、急に連戦になったり、練習量も日によって大きく変動します。
そして成長期の選手は、
・身体が伸びる(成長)
・練習で消耗する(運動)
この二つを同時にこなすため、常にエネルギー不足になりやすい状態です。
もしエネルギーが足りなければ、
・集中力が続かない
・試合の後半で急に動けなくなる
・疲労骨折などの怪我が増える
・女子選手は月経の乱れが生じやすい
という影響が出やすくなります。
つまり、食事は“栄養”である前に、「怪我や不調を防ぐための毎日の準備」なのです。
炭水化物・たんぱく質・脂質。3つの栄養素を「物語」として理解する
食事指導というと「〇g食べましょう」といった話になりがちですが、ガイドラインを読み解くと、もっと感覚的に理解すると良いことがわかります。
炭水化物は、テニスの物語を動かす“燃料”
テニスはダッシュ、ストップ、方向転換、集中力の維持…
そのどれもが炭水化物(ごはん・パン・麺)に支えられています。
試合時間が長くなるほど必要量は増え、ジュニア選手は特に枯渇しやすいと言われます。
「ごはん少なめ」は、大会後半での失速にもつながりやすいのです。
たんぱく質は、身体をつくり直す“修理班”
練習のたびに、選手の身体は小さなダメージを受けています。
その修復を担当してくれるのがたんぱく質です。
筋肉だけでなく、骨、血液、免疫、ホルモンにも関わるため、夜のたんぱく質は、翌日の元気のための投資だと考えてよいでしょう。
脂質は、プレーを支える“長距離ドライバー”
動き続けるための持久的なエネルギーとして働くのが脂質。
「脂は悪いもの」という誤解から極端に避ける選手もいますが、成長期は特に、脂質の不足がホルモンバランスの乱れにつながります。
良質な脂(オリーブオイル、ナッツ、魚など)を“適量”取り入れていくことが大切です。
食事を「整える」ことは、練習メニューを設計するのと同じ
ガイドラインでは、日常の食事を「基礎練習」と表現しても良いほど、重要視しています。
では、家庭でどのように“整える”ことができるのでしょうか。
朝食|1日のスイッチを入れる「スタート食」
朝は、からだのエンジンを温める“点火の時間”です。
眠気まなこで椅子に座るジュニアの前に、主食(ごはん・パン)+たんぱく質(卵や乳製品)+果物+水分がそっと並んでいるだけで、その日の集中力とスタミナは大きく変わります。
「朝は食べないほうが軽い」という言葉は、エネルギー不足がもたらす“偽りの軽さ”であることが多く、ガイドラインでも朝食の重要性が繰り返し強調されています。
昼食|午後の練習を支える「再チャージ食」
昼は、午前の消耗を回復しながら午後の練習へ向かう“大事な橋渡し”。
特にテニスは午後に強度の高い練習が入ることが多く、ここでの食事が後半の動きに直結します。
ごはんやパスタなどの主食をしっかりとり、肉・魚・卵などのたんぱく質、そして彩りのある野菜を添えることで、エネルギータンクがふたたび満たされていきます。
夕食|身体をつくり直す「リセット食」
夜は、成長ホルモンがもっとも活発に働く時間。
つまり“体をつくり直すゴールデンタイム”です。
練習で受けた細かなダメージを修復し、明日のコンディションを整えるために、
- 主食でエネルギーを補い
- 肉・魚・大豆でたんぱく質をしっかり
- 野菜・海藻でビタミン・ミネラルを補給する
そんな“落ち着いた食卓”が、翌日のプレーを静かに支えてくれます。
回復食|練習後30分の「小さな勝負どころ」
そして、ガイドラインで特に強調されているのが、練習や試合後30分以内の回復食(リカバリーフード) です。
炭水化物は、このタイミングで最も吸収されやすく、疲労回復を一気に進めてくれます。
むずかしく考える必要はありません。
- おにぎり
- バナナ
- ヨーグルト
- 牛乳
- カカオ多めのチョコ
など、ジュニアでもすぐ手に取れる“続けやすいもの”が最適です。
短い時間の小さな選択が、翌日の体の軽さを大きく変えます。
エネルギー不足を防ぐ、家庭で使える3つの知恵
文章の流れに合わせて、ここでは“心がけ”として紹介します。
1|主食は「減らす」のではなく「守る」
体重を気にするジュニアほど主食を減らしがちですが、テニスの特性を考えると、これは大きなマイナスです。
プレーの質を保つためにも、ごはん・パン・麺をしっかり食べる習慣を。
2|“おやつ=第二の食事”という考え方
間食は息抜きだけではなく、立派なエネルギー補給のタイミング。
試合と試合の合間、練習前後など、テニス特有のスケジュールにとても役立ちます。
3|飲み物でエネルギーをとる工夫
忙しい日、時間がない日、食欲が落ちる日…。
そんなときは、牛乳や100%ジュース、スムージーなど“飲む栄養”を活用すると、自然にエネルギーが補えます。
ごはんは「愛情」でもあり、「戦略」でもある
成長期のテニス選手は、身体を育てながら競技力も育てるという、特別な時期を過ごしています。そのどちらも支えてくれるのが、ふだんの食事。
特別なサプリよりも、特別なメニューよりも、
まずは「主食をしっかり」「たんぱく質をこまめに」「練習後30分の回復」
という、シンプルだけれど確実な土台が選手を強くします。
毎日の一皿が、未来のプレーにつながっています。
次回は、試合で力を出し切るための「試合前・試合中・試合後の食事」について、ガイドラインの内容をもとに、実践しやすい形でお届けします。

