「強い国は、強い“育て手”をつくる。」
先日行われたジュニアデビスカップとビリー・ジーン・キング・ジュニアカップで、アメリカが男女ともに優勝しました。
その背景には、選手個々の才能だけでなく、全米で進む“コーチを育てるための仕組みづくり”があります。
アメリカが今、どんな育成改革に取り組んでいるのかをご紹介します。
テニス人口6百万人増の裏で起きた「コーチ不足」
アメリカでは2020年からわずか5年で、600万人の新規プレーヤーがテニスを始め、競技人口は史上最多の2,570万人に達したと報じられています(引用元:Tignor, 2025/Tennis.com)。
パンデミック期の「安全にできるスポーツ」として注目されたことが大きな追い風になりました。
しかし、急増したプレーヤーに対し、
- コーチが足りない
- 指導の質が揃わない
- 初心者の受け皿がない
といった課題が深刻化。
USTA(全米テニス協会)がまず向き合ったのは、“育て手の不足”という根本問題でした。
USTAが進める国家規模のプロジェクト「USTA Coaching」
コーチ不足を解消するため、USTAは2024年に「USTA Coaching」という、全米の指導者向け学習プラットフォームを立ち上げました。
ポイントは、保護者からプロまで、段階的に学べる仕組みにしたことです。
■USTA Coachingの内容
①保護者や学校指導者向けの入門プログラム(Baseline)は無料。
子どもと一緒にできる練習方法や基本的な安全知識を短時間で学べるよう設計されています。
②本格的に教えたい人には、有料の年会費制プログラム。
例えば「新人コーチ向け(Rally(49ドル/年))」「大学コーチ向け(Pro(149ドル/年))」「プロ向け(Pro Plus(249ドル/年))」などレベル別に選べます。
つまり、アメリカでは
「まずは子どもを支える大人を育てる → そこから専門指導者を育てる」
という流れが全国規模で整備されつつあります。
USTAはこれを「全米の指導クオリティを統一するための長期戦略」としています(引用元:Craig Morris, USTA Coaching CEO/Tignor, 2025)。
重視されるのは“打ち方”よりも“人への向き合い方”
USTA Coachingが特徴的なのは、技術以上に“人を導く力”を重視していることです。
指導者向け教材の入り口には、
- 共感(Empathy)
- 傾聴(Active Listening)
- 信頼関係(Building Trust)
といった、人間的なスキルが置かれています。
アメリカでは新規プレーヤーの多くが大人で、「仲間とのつながり」「居場所としてのテニス」を求める人が多いとも報告されています。
そこから生まれたのが、
“コーチは技術だけでなく、コミュニティをつくる存在”
という考え方。
この姿勢は、ジュニア育成にも確実に影響を与えています。
施設への10億円規模投資──“練習できる場所”も同時に整える
USTAは2025年、1,000万ドル(約15億円)を投じて、全国のテニス施設を新設・改修する計画も発表しました。
「プレーしたい人がいるのに、場所がない」という問題も同時に解決するためです。
アメリカが進めるのは
コート(環境) × コーチ(育成) × コミュニティ(人)
を同時に成長させる国家的プロジェクト。
この地道な土台づくりこそ、ジュニア年代の強さを底支えしています。
ジュニア国際大会での男女優勝は“偶然”ではない
今回、ジュニアデビスカップ・ビリージーンキングジュニアカップで男女そろって優勝したアメリカ。
その背景には、ここ数年の
- 学校への普及活動
- コミュニティ育成
- 若手コーチの発掘
- 指導の質を全国で統一する取り組み
といった“見えない努力”があると分かります。
アメリカは選手だけでなく、選手を導く大人を育てる国へと変わりつつあります。
まとめ
アメリカが国際大会で強さを発揮できるのは、選手の才能だけでなく、「育てる人」を大切にする文化が根付いてきたからかもしれません。
コートを整え、コーチを学ばせ、コミュニティを育てる──
その積み重ねが、未来の強い選手を生み出していきます。
ジュニアテニスに関わる私たちにとっても、「子どもを支える大人を育てる」という視点は大きなヒントになるはずです。
引用元:
Tignor, S. (2025). USTA bets big on coaching to sustain tennis’ pandemic-era boom. Tennis.com.

