U14男子テニスの“最初の一撃”─レ・プティット・ア(Les Petits As)2023にみるサーブ戦術の現在地

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「勝敗は0〜4打に決まる。鍵は“1本目+次の1本”。」

U14の国際大会は、将来のプロへつながる“戦術の学校”でもあります。

U14の世界大会級「レ・プティット・ア(フランス、U14の“世界選手権”と称される大会)」の上位ラウンドを詳細分析した最新研究が、サーブと“サーブ+1本目”の現状と課題を明らかにしました。

数字が語るのは、ファーストサーブの決定力と、前へ踏み込めない戦術的もどかしさです。

目次

レ・プティット・アを舞台にした本格的データ分析

この研究は、スペイン・ビゴ大学やITF(国際テニス連盟)の研究者による共同プロジェクトです。

対象となったのは、2023年レ・プティット・ア男子シングルスの準々決勝から決勝までの7試合、計971ポイント。

試合映像をもとに、サーブのコース、ラリーの長さ、打点の位置、エラーやウィナーの分布まで細かく観察されました。

分析には「OBSTENNIS-JUNIOR-S23」という専用の観察ツールと、行動パターン分析ソフト「THEME 6 Edu」が使用され、統計学的に精度を保証。

このような“定量的観察研究”は、ジュニアの戦術的特徴を客観的に示す数少ない試みです。

ファーストサーブの優位は明確、短いラリーが勝負を分ける

結果は明快でした。サーバーがポイントを取る確率は全体で約56%。そのうち、ファーストサーブによるポイント獲得率が圧倒的に高く、特に短いラリー(0〜4打以内)での効果が際立ちました。

ファーストサーブを「Tゾーン(センター寄り)」に入れた場合、勝率はデュース側で73.4%、アド側で81%。ワイドへのサーブでも70%を超える成功率を記録しました。

一方、セカンドサーブは全体的に効果が落ち、特にリスクを抑えた“ボディサーブ”でやや成功率を回復させる傾向が見られました。

つまり、「最初の2打(サーブ+次の1打)」が勝敗を左右する鍵であることが、データから裏づけられたのです。

“前へ出ない”ジュニアたち──ポジションの課題

研究者たちは、U14選手の多くが「ベースライン後方でプレーを続ける傾向」を指摘しています。

プロ選手のようにサーブ後すぐに前へ入り、主導権を握る動きが少なく、ラリーの主導を生かし切れていないのです。

特に“サーブ+1本目”のショットで、攻撃的な選択ができずラリーが長引いたり、エラーで終わる場面が多く見られました。これは、まだ成長途上にある身体的・判断的要素の影響とも考えられます。

また、フィニッシュショットの多くがコート中央エリアに集まり、プロのように相手を左右に動かして決める「角度のある展開」は少数でした。

ジュニア選手の戦術がまだ“守備的・中央寄り”であることが、このデータからも明らかです。

サイド別の傾向:デュースはT、アドはワイド・ボディ

サーブのコース選択にも、興味深い傾向がありました。

デュースサイドではTゾーンへの配球が多く、アドサイドではワイドやボディを狙うケースが増えます。これは、ジュニア選手が自信のある方向へ安全に打つ傾向を示しているといえます。

ただしセカンドサーブでは、アドサイドのT方向が大きく減少。リスクを避けるため、より安全なワイドやボディを選ぶ傾向が顕著でした。

サーブ後の展開でも、デュースサイドではラリーが長くなる一方、アドサイドでは比較的短く終わるケースが多く、サイドによるプレーの特徴が見て取れます。

戦術形成はこれから――“1本目+次の1本”の質が未来を決める

研究チームは、U14の戦術力が「発展段階」にあることを強調しています。

サーブの精度は高まりつつあるものの、コースの使い分けや、サーブ後の“前への意識”はまだ未成熟。
配球パターンが均等で、“勝ちパターン”が確立していないことが、プロとの最大の違いでした。

また、ラリーの多くが4打以内で終わるという事実は、練習の重点を示唆します。

「ラリーを長く続ける」よりも、「サーブと1本目で主導権を握る」練習を重ねることが、上位ステージへの橋渡しになる――研究結果は、その方向性を示しているようです。

まとめ

この研究は、U14世代のトップ選手が“どのように戦っているのか”を、世界でも珍しい形で可視化しました。
ファーストサーブの重要性、短いラリーでの決定力、そして“前へ出る勇気”の必要性。

これらの発見は、単なる数字ではなく、ジュニア育成の現場で生きるヒントになりそうです。

※本記事は学術論文の内容紹介であり、筆者による解釈や意見を含みません。

引用元

Prieto-Lage, I., Crespo, M., Martínez-Gallego, R., Reguera-López-de-la-Osa, X., Silva-Pinto, A. J., & Gutiérrez-Santiago, A. (2025). First-Serve Advantage and Emerging Tactical Limitations in Elite U-14 Boys’ Tennis: A Les Petits As Case Study. Applied Sciences, 15(10), 5341. https://doi.org/10.3390/app15105341

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