「その一球が“どれだけ速く、どれだけ意図通りに、どんな状況でも打てるか”。未来の差はそこに生まれる。」
ジュニアテニスの指導では、「いま伸ばしている力が、将来のどこにつながるのだろう?」という迷いが常につきまといます。
オランダで行われた今回の研究は、13〜14歳の男子選手を4年間追跡し、“どんな技術が未来の競技レベルを決めるのか”を初めて科学的に示したものです。
育成年代をサポートする大人にとって、非常に価値のある知見と言えます。
研究が明らかにした「テニスの核心技術」
今回の研究が注目されるのは、単なるフォーム評価や素振りではなく、実際の試合に近い“状況判断を伴う技術”を測定した点にあります。
選手が受けたテストは、球出しマシンを使い、
- 攻め(オフェンス)
- 中立(ニュートラル)
- 守り(ディフェンス)
といった状況に応じて返球するという、まさに“試合そのもの”の環境を再現したものでした。
そこで測られたのは以下の3つ。
- ボールスピード(どれだけ速く打てるか)
- 精度(コントロール)(狙った場所にどれだけ打てるか)
- ミスの割合
このうち、将来の成績を最も強く予測したのが、「スピード」×「正確さ」という技術の柱でした。
分析では、なんと未来の実力の46%は13〜14歳時点の技術で予測できるという結果。育成年代としては、驚くほど高い予測力です。
勝負を分けたのは“変化に強い選手かどうか”
研究では、4つのテスト状況が用意されていました。
- Game1:固定(左へ)
- Game2:固定(右へ)
- Game3:左右へ交互に返球(変化)
- Game4:ライトの指示に反応して返球(変化+即時判断)
興味深いのは、将来U18で上位に残った選手は、特にGame3と4の「変化のある状況」で卓越した精度を示したことです。
固定状況では差が出ませんでしたが、判断が必要な場面になると――
- エリート選手:精度がほとんど落ちない
- 競技レベル中位の選手:精度が大きく低下する
この差は、試合でよく見られる“苦しい場面で崩れない選手”と“自分の形でしか打てない選手”の違いにも重なります。
言い換えると、「技術 × 認知 × 判断」の三位一体こそ、未来の競技力につながるということを、この研究は示しているのです。
身体の成長が有利でも、それは“未来の強さ”とは限らない
U14の段階で、エリートになった選手は――
- 身長が高い
- 体重が重い
- 成熟度が高い(成長の進行が早い)
という傾向がありました。
しかし、重要なのはここからです。
これらの身体特徴は、U18での成績を予測しなかった。
つまり、早熟で一時的に優位に見えても、それが“本当の実力差”ではない可能性が高いということです。未来の競技レベルは「身体」ではなく「技術」で説明できたのです。
これは、保護者が最も不安に感じやすい点でもあります。
- 体格の差に一喜一憂しない
- 身体より技術の育成を長期軸で見る
- いま負けていても「伸びる要素」が別にある
こうした視点を持つことが、選手の未来を正しく見守る基盤になります。
ジュニア育成に今日から生かせる3つのヒント
① まずは「正確さ」を土台として育てる
小学生の時期は、身体がまだ軽く、細かい動きを覚えやすい“協調性(頭で思った通りに身体を動かせる能力)の伸びやすい時期”です。
この時期に狙った場所へ安定して打つ感覚を身につけると、その後の技術がぐっと積み上げやすくなります。研究でも、この「正確さ」が将来の成績に最も強く影響していました。
② 成長期以降、「スピード」を段階的に加えていく
思春期に入ると筋力が伸び、自然とボールに“重さ”が乗りやすくなります。
そのタイミングで、正確さを崩さない範囲で少しずつスピードを上げる練習に移行すると、無理のない形で強いショットが育ちます
③ 試合に近い“状況つきの練習”を増やす
今回の研究でわかった最大のポイントは、“変化に対応しながら打つ精度”こそが将来のカギになること。
例えば、
- ランダムな指示で打ち分ける
- 相手の動きを見て狙いを変える
- 時間的プレッシャーをかける
など、「判断せずには打てない状況」をつくる練習は、確かな技術の伸びにつながります。
“未来をつくる技術”を見誤らないために
育成現場では、つい目の前の勝敗や体の大きさに目が向きがちです。
しかし今回の研究が示したのは、“変化に対応できる技術こそが選手の未来を支える”という事実でした。
試合の中で、
- 自分の形が崩れたとき
- 相手に時間を奪われたとき
- 予測と違うボールが来たとき
この“苦しい瞬間”に精度を保てる選手は、長期的にも伸び続ける可能性が高いと考えられます。
ジュニア期の土台づくりは、選手自身が気づかないほど静かに、しかし確実に未来を形づくっていきます。
強さは「速さ」ではなく、“速さを扱える技術”に宿る
今回の研究は、育成年代に必要な技術の優先順位をクリアに示しました。
- 正確さを幼少期にしっかり育てる
- 成長に合わせてスピードを乗せる
- 状況判断を伴う練習で実戦力へつなげる
この3つの軸が、選手の未来を支える確かな基盤になります。
保護者もコーチも、「いまの一球が、未来の選手をつくっている」という視点を持つことで、日々の練習がより意味を帯びていきます。

