“切り返し力”は、スピードよりも大切な「テニスの知恵」。
コートの中での一歩の違いが、勝敗を分けるのがテニス。
その一歩を支えるのが、「方向転換(Change of Direction)」の力です。
インドネシアで行われた研究(2024年12月)が、ジュニア選手の切り返し能力を高める新しいトレーニングモデルを開発しました。
速さよりも、“切り返し”が勝敗を分ける
テニスでは、前後左右に瞬時に動く能力が求められます。
この「Change of Direction(CoD)」能力は、直線的なスプリントよりも試合パフォーマンスに強く影響することが報告されています(Volk et al., 2023)。
また、優れたCoD能力はケガの予防にもつながるとされ、選手の基礎的運動力として注目されています(Fox, 2018)。
しかし、ジュニア選手を対象とした体系的なCoDトレーニングの研究は少なく、現場では感覚的な指導に頼らざるを得ない状況がありました。
この課題に対して、ジャカルタ国立大学の研究チームが新しいトレーニングモデルを開発したのです。
6か月でタイムが改善!科学的に設計された新トレーニング
研究は、14〜16歳のジュニアテニス選手46名を対象に、教育設計法であるADDIEモデル(分析→設計→開発→実施→評価)を用いて進められました。
6か月間にわたり、30種類のCoDトレーニングを実施。その結果、選手たちの平均タイムは17.66秒から17.02秒へ改善し、統計的にも「中程度の効果(N-Gain=0.43)」が確認されました(Yonda et al., 2024/Gladi: Jurnal Ilmu Keolahragaan)。
研究チームは、これらの結果から「方向転換能力を重点的に育てるプログラムが、ジュニア育成において有効である」と結論づけています。
さらに、現場調査では約4割のコーチが方向転換トレーニングを実施していないことも明らかになり、指導現場での普及が今後の課題とされています。
遊びの中で“切り返す力”を育てよう
この研究が示すのは、「切り返しの力は、トレーニングで伸ばせる」ということ。
しかも、これは特別な設備がなくても、家庭や公園でも育てられます。
たとえば──
鬼ごっこやドリブル遊び:追う・逃げる・止まる・向きを変える動作が自然に身につく。
ジグザグランや障害物走:コーンやペットボトルを並べて、左右に走る練習。
合図で動く反応ドリル:親の「右!」「後ろ!」の声で瞬時に動く。
これらはすべて、研究で扱われた「CoDトレーニング」の基礎となる動きです。
成長期の子どもは体格が急に変化するため、スピードよりも“正しい姿勢で止まる・動き出す”ことを意識することが大切です。
“体の切り返し”が、“心の切り替え”を育てる
「方向を変える力」は、コートの中だけではありません。
試合で不利な展開になったとき、すぐに気持ちを切り替えて次へ向かう力も同じです。
親ができるのは、「今の動き、いい反応だったね」と、成功よりも反応そのものを認めてあげること。
その言葉が、子どもの“動ける心”を育てます。
まとめ
方向転換の力は、単なるスピードではなく「判断・体の使い方・心の柔軟さ」が重なって生まれるものです。
研究が示した科学的アプローチと、家庭での小さな工夫が合わさることで、子どもたちは“動ける体と心”を育てていけます。
引用元
Yonda, O., Miftakhudin, H., Oktafiranda, N. D., & Yuliana, E. (2024). Development of a Change of Direction Training Model for Junior Tennis Athletes. Gladi: Jurnal Ilmu Keolahragaan, 15(3), 274–282. https://doi.org/10.21009/GJIK.153.01

