「強さは、練習量ではなく“当日の整い方”で完成します。」
同じショットを打てても、試合で崩れる子と、終盤ほど粘れる子がいます。
その差をつくるのが、コンディショニング(=勝つために心身と環境を整える力)です。国内の体系的な整理と世界の研究データを照らし合わせて、ジュニアテニスの現場で“回る形”に落とし込みます。
コンディショニングは「最大化・予防・回復」の同時進行で決まる
コンディショニングの目的は、突き詰めると3つです。
■コンディショニングの目的
パフォーマンスの最大化:試合当日に最高の状態へ合わせる
ケガの予防:負荷と身体のサインを管理して、痛みの連鎖を止める
疲労の管理(リカバリー):慢性疲労やオーバートレーニングの手前で立て直す
この3つは、どれか1つだけ頑張っても成立しません。
身体(筋・関節・内科的体調)だけでなく、心理、睡眠、栄養、水分、環境まで含めて“パフォーマンスに関わる要因を横断して整える”発想が、いまの競技スポーツの前提になっています。
4本柱で見ると、テニスの“崩れポイント”が具体化する
ここからは、実戦で使える「4本柱」です。
①運動・トレーニング:負荷(強度×量)を設計し、急増を避ける
テニスは「切り返し」「減速」「回旋(ひねり)」が多く、フォームが少し崩れるだけで肩・肘・腰・膝へ負担が回ります。
だから大事なのは、強度と量を“勝手に増えないように”設計すること。負荷設定(強度×量)や期分け(準備期・試合期など)で強度と量を管理し、トレーニングと回復・栄養を連動させることが大切です。
②栄養・食事:試合週は「燃料不足」が起きやすい
試合前は高炭水化物でエネルギータンクを満たし、運動前後はタンパク質と水分を小刻みに入れる。
この軸は、ジュニアでも再現性が高い戦略です。
実例として、複数の試合がある日は「試合と試合の間に、こまめに水分と炭水化物中心の補給をする」という考え方も有効です。
③睡眠・休養:傷害リスクとパフォーマンスの両方に効く
思春期アスリートでは、平均睡眠が8時間未満の選手は8時間以上の選手より傷害を経験しやすい(1.7倍)という報告があります。
睡眠は「気合で補う」領域ではなく、競技力の土台です。
睡眠の質の目安として、寝つき(睡眠潜時)は30分未満、睡眠効率は85%以上がひとつの基準になります(個人差あり)。
ただし、休日の寝だめは一見よさそうに見えて、リズムを崩すことがあります。いつもより2時間長い睡眠の日が2日続くと生体リズムが45分遅れ、元に戻すのに3日かかるという報告もあります。
試合が早い週ほど、「前日だけ早寝」ではなく、数日前から少しずつ前倒しするほうが安定します。
④メンタルヘルス:ストレスをゼロにするより「戻る手順」を持つ
厳しいトレーニングは、心理面で悪影響が出る可能性もあり、オーバートレーニング症候群や燃え尽きの懸念も指摘されています。
ここで効くのが「セルフコンディショニング」と「ソーシャルサポート」。
セルフコンディショニングは、「調子が悪い時に立て直す技術」だけでなく、「調子が良い日を再現する技術」でもあります。毎日の記録(体重・心拍・疲労感など)とセットにして、良い日の睡眠・補食・ウォームアップの共通点を言語化すると、試合での再現性が一気に上がります。
さらに、周囲の支援者(家族・コーチ・トレーナー等)を“連携するチーム”として捉え、必要な支援へアクセスできる状態を作ることが、競技の安定につながります。
世界のデータが示す「ジュニアは不調を抱えやすい」現実
オランダのエリートジュニア(11〜14歳)を32週間追跡した研究では、毎週平均で約21%が何らかの健康問題(ケガや病気)を抱え、そのうち約12%がオーバーユース(使いすぎ)によるケガでした。さらに急性のケガはテニス1000時間あたり1.2件という推定も出ています。
ジュニアの難しさは、「休むほどではない不調」を抱えたまま回ってしまうことです。
- いつもより脚が重いのに、連戦でさらに走る
- 肘が張っているのに、サーブ練習を増やす
- 眠いのに、帰宅後に動画→寝るのが遅れる
この積み重ねが、終盤の判断ミスやフォームの崩れにつながります。
勝ち負け以前に、シーズンを通して積み上げるための“整える設計”が必要です。
まずは毎朝1分でOK――「チェック→整える→当日合わせ」の型を作る
分厚いコンディショニングほど、やることを増やすより、回す型を固定したほうが続きます。
①コンディション評価:客観×主観を“毎朝1分”
おすすめはこの3点をセットにすることです。
- 体重(基準からの変動)
- 安静時心拍数(普段より高い状態が続くなら要注意)
- 主観疲労(10段階)(本人の感覚を数字化)
この3つを同じ時間帯(起床後・トイレ後など)に測ると、日ごとのブレが減って変化が見えやすくなります。
目安として、安静時心拍がいつもより高い日が続く/主観疲労が7以上が2日続くときは、練習の“量”より“質”に寄せる判断材料になります。
数字が揃ってくると、「なんとなく不調」を言語化でき、コーチにも状態を伝えやすくなります。
②水分:脱水は“体重2%ライン”で管理する
脱水は、深部体温の上昇を招いて熱中症リスクを上げ、競技パフォーマンスも落とします。体重の2%以上の脱水でパフォーマンスが低下し、持久性だけでなく認知機能も落ちることがあります。
さらにメタ分析でも、脱水は注意・実行機能・運動協調などを低下させやすく、特に体重減少が2%を超える条件で影響が出やすいと結論づけられています。
テニスは汗をかく競技で、発汗量と飲水量の差がそのまま脱水につながります。
テニスの例として、発汗1.46 L/時に対して飲水0.65 L/時、脱水率が平均1.59%(範囲0.4〜2.8%)という情報もあります。
運用はシンプルでOKです。
- 朝:体重を記録(基準)
- 試合:チェンジエンドごとに「一口×2」などルール化
- 終了後:体重が落ちていれば、回復を“計画的に”
運動中は体重2%以上の脱水を避け、運動後は体重減少分の1.25〜1.50倍程度の水分摂取が推奨されています。
スポーツドリンクは「電解質と糖質を含むもの」が効率的という情報もあります。
セルフケアは“短く・一定に”が理想――温度と時間で回復が変わる
セルフケアは“気分”ではなく“条件”でやると安定します。
ストレッチ・フォームローラー:毎回完璧より、薄く長く
試合週ほど、疲労がたまって「利き腕側だけ張る」「片脚だけ重い」といった左右差が出やすくなります。
ストレッチは“伸ばす時間”より、硬くなりやすい部位を毎回同じ順番で軽く整えることが大切です。
フォームローラーは、研究でも可動域(ROM)を広げ、筋肉痛(DOMS)や筋の硬さを軽減しやすいことが報告されています。短時間でも効果が示されるため、ふくらはぎ・前もも・お尻を各30秒ずつなどで十分実用的です。
入浴(温冷浴):目的で使い分ける
温水浴の目安として、36〜40℃で10〜20分、帰宅後または就寝前。筋ダメージが大きい運動の直後は、タイミングを少しずらすほうが安心です。
冷水浴は、10〜20℃で10〜15分(肩まで)が目安で、メタ分析でも10〜15分の設定が回復指標で有利になりやすいことが示されています。
交代浴は、温かい湯と冷たい水を短時間ずつ交互に行います。回復感や筋肉痛の軽減にプラスになり得ますが、研究の質にはばらつきもあるため、狙い(回復・リフレッシュ)に合わせてタイミングを選ぶのが現実的です。
練習を増やす前に、整える仕組みを一つだけ足そう
コンディショニングは、才能の話ではなく“設計”の話です。
「4本柱(運動・栄養・睡眠・メンタル)」を同時に回し、毎日の型を「チェック→整える→当日合わせ」に揃えると、試合の終盤が変わります。脱水2%ライン、睡眠8時間の重要性、ジュニア期の健康問題の発生実態――世界のデータが示す方向は一貫しています。
今日からの第一歩は、毎朝1分の記録(体重・心拍・主観疲労)だけで十分です。そこに水分と睡眠の“条件”が乗ると、整える力が一気に育ちます。
引用元
- 独立行政法人日本スポーツ振興センター(2024)「アスリートのための トータルコンディショニング ハンドブック」
- Milewski, M.D. et al.(2014)睡眠時間と傷害リスク(<8時間で1.7倍)
- Wittbrodt, M.T. & Millard-Stafford, M.(2018)脱水と認知パフォーマンス(メタ分析、>2%で影響が出やすい)
- Pluim, B.M. et al.(2016)エリートジュニアテニスの傷害・疾病(11–14歳、32週間追跡)

