ジュニアテニスの現場では、よくこんなことが起こります。
- 同じ練習をしているのに急激に上達する選手がいる
- 何度説明してもフォームが変わらない選手がいる
この差は、単純に才能だけではありません。
スポーツ科学では、上達の速い選手はある共通した特徴を持っていることが分かっています。
それは、
動きを予測する力
動きを振り返って修正する力
です。
元陸上選手の為末大さんは、この2つの能力を
フィードフォワード
フィードバック
という言葉で説明しています。
これは実は、スポーツ科学や神経科学でも広く知られている運動学習の仕組みです。
テニスは「予測のスポーツ」
人間が体を動かすとき、脳は大きく2つの方法で動作をコントロールしています。
それが
- フィードフォワード
- フィードバック
という2つの仕組みです。
この2つの働きが組み合わさることで、私たちはスポーツの動作を学習し、上達していきます。
動作の前に体を準備する「フィードフォワード」
まず一つ目が、フィードフォワード(Feedforward)。
フィードフォワードとは、動作をする前に「こう動けばうまくいくはずだ」という予測を作り、そのイメージをもとに体を動かす仕組みです。
例えばテニスでフォアハンドを打つとき、選手は
- ボールのスピード
- 回転
- バウンドの高さ
- 自分のポジション
といった情報を瞬時に処理し、
「この位置で打点を作り、このスイング軌道で振れば入る」
という予測を脳の中で作っています。
そしてその予測に基づいて
- 足を動かし
- 体を回転させ
- ラケットを振る
という動作が行われます。
つまりフィードフォワードとは、動作の前に作られる「体の設計図」のようなものです。
テニスのようにスピードの速いスポーツでは、この能力が特に重要になります。
動作を振り返って修正する「フィードバック」
もう一つが、フィードバック(Feedback)。
フィードバックは、実際に動いた結果を感覚で確認し、次の動きに修正する仕組みです。
例えばフォアハンドを打ったあとに
- ボールがネットにかかった
- 打点が少し後ろだった
- スイングが窮屈だった
と感じることがあります。
このとき脳は
「打点が遅れた」
「体の回転が足りなかった」
という情報を記憶します。
そして次のボールが来たときに
- 少し早く準備する
- 打点を前にする
- 足をもう一歩動かす
といった修正が起こります。
これがフィードバックです。
つまりフィードバックとは、動作の結果を振り返り、次の動きを調整する仕組みです。
上達は「予測 → 実行 → 修正」のサイクルで起こる
スポーツ科学でも、こうした学習の仕組みは昔から研究されています。
アメリカの運動学習研究者であるRichard A. Schmidt は、運動学習の研究の中で、「人間は「動作の結果」をもとに次の動きを調整しながらスキルを習得する」という理論(スキーマ理論)を提唱しました。
簡単に言えば、人間は
- 動いて
- 結果を確認し
- 次の動きを修正する
というサイクルを繰り返すことで、動作の精度を高めていくという考え方です。
これはまさに、フィードフォワードとフィードバックの循環と同じ仕組みです。
スポーツの上達は、この2つの力が繰り返し働くことで起こります。
■フィードフォワードとフィードバックの循環
予測する(フィードフォワード)
↓
プレーする
↓
振り返る(フィードバック)
↓
次の予測がより正確になる
このサイクルが速く回るほど、選手の上達も速くなります。
なぜ「ものまねが上手い子」は伸びるのか
ジュニアテニスの現場では、昔からこう言われます。
ものまねが上手い子は伸びる。
これは経験的な言葉ですが、実は科学的にも説明できます。
人間の脳には、「ミラーニューロン」と呼ばれる神経の仕組みがあります。
これは、
- 他人の動きを見る
- その動きを自分が行う
この2つを結びつける働きをしています。
つまり人間は
見る → 真似する → 修正する
というプロセスで動作を学習するようにできているのです。
そのため
- 上手い選手のフォームを見る
- コーチの動きを真似する
- 動作を繰り返す
という練習は、脳の仕組みから見ても非常に合理的です。
上達の速い選手が必ずやっていること
では、上達の速い選手は何が違うのでしょうか。
それは、フィードバックの量です。
上達の速い選手は自分のプレーを振り返る回数が多い。
そしてその振り返りが、次のプレーのフィードフォワード(予測)をより正確にします。
つまり、
振り返り
↓
修正
↓
予測の精度が上がる
というサイクルが、速く回っているのです。
そのサイクルを加速させる「最強のツール」
ここで、現代のジュニア選手にとって非常に強力なツールがあります。
それが、動画です。
人間は、自分の動きを正確に把握することがあまり得意ではありません。
例えば、選手はよく「ちゃんと体を回している」と言います。
しかし動画を見ると
- 体が回っていない
- 打点が後ろ
- スイングが遅れている
ということはよくあります。
これは決して選手が嘘をついているわけではありません。
自分の感覚と実際の動きがズレているだけなのです。
動画は、このズレを教えてくれます。
実は、動画を使った学習はスポーツ科学でも効果が確認されています。
スポーツ心理学では、「Video Feedback(ビデオフィードバック)」と呼ばれる方法があり、自分の動作を映像で確認することで
- 技術習得
- 動作理解
- 修正能力
が高まることが多くの研究で報告されています。
つまり動画は、フィードバック能力を高めるための非常に有効なツールなのです。
トップ選手ほど「振り返り」を大事にしている
実はトップ選手ほど、自分のプレーを客観的に見ています。
試合の後には
- 試合映像
- 練習動画
- データ
を使って、自分のプレーを分析します。
これは単なる理論ではありません。
彼らは、「フィードバック → フィードフォワード」のサイクルを高速で回しているのです。
つまり動画を見ることは、トップ選手と同じトレーニング方法なのです。
ジュニア選手におすすめしたい習慣
もし上達を速くしたいなら、ぜひ次の習慣を作ってみてください。
週に1回でもいいので
練習をスマートフォンで撮影する
↓
家で動画を見る
↓
良い動きと改善点を見つける
↓
次の練習で意識する
この習慣を続けるだけで、運動学習のスピードは大きく変わります。
上達の本質
スポーツの上達は
やる → 振り返る → 修正する
この繰り返しです。
そしてそのサイクルを速くするのが
- ものまね
- 動画
- 振り返り
です。
もしまだ動画を撮っていないなら、次の練習からぜひ撮影してみてください。
それだけで、あなたのテニスは大きく変わるかもしれません。

