「成長が遅いのではない。時間軸が違うだけ。」
海外では15〜16歳の選手がすでにプロとして活躍していて、ボールスピードやフットワーク、フィジカルなど、日本人との差を歴然と感じることがあります。
しかし実は、その差の多くは才能ではなく、身体成熟のタイミングの違いによるものだと、発育発達の研究は示しています。
日本人は「平均で約1年、体の成熟が遅い」
発育発達学では、思春期に身長が最も速く伸びる時期をPHV(Peak Height Velocity)と呼び、身体成熟の重要な指標としています。

このPHV到達年齢を国際比較すると、
・欧米(北米・北欧の白人集団):12〜13歳
・日本人:13〜14歳
と、平均で約0.8〜1.2年、日本人の方が遅いことが示されています。(Malina et al., 2004)。
さらに
骨の成熟度(骨年齢)を用いた研究でも、「日本人児童は、欧米白人集団と比較して骨成熟が遅れる傾向を示す」と報告されています(Tanner et al., 2001/日本小児内分泌学会)。
これは「一部の選手」ではなく、集団として一貫して見られる傾向です。
男女で違う「成長のタイムライン」
身体の成長が欧米より遅れる傾向は、男女共通ですが、現れ方と影響の大きさは、男女でかなり違います。
男子|「差が見えやすく、誤解されやすい」
男子の場合、
・思春期開始
・PHV(成長スパート)
・筋量・筋力の急増
これらが日本人は欧米より約0.8〜1.2年遅れることが、多くの研究で示されています(Malina et al., 2004)。
そのため、
- 12〜15歳では体格・パワー差が非常に大きく出やすい
- 成熟前は、技術や判断力があっても勝ちにくい
という時期が生まれます。
男子では特に、「今の差=将来の差ではない」という認識が欠かせません。
女子|「差は小さいが、タイミングは早い」
一方、女子は、
- 思春期開始が男子より早い
- 身体成熟の個人差が比較的早期に収束する
という特徴があります。
日本人女子も欧米女子と比べると、初経年齢・骨成熟がやや遅い傾向はありますが、その差は男子ほど大きくありません(約0.5〜1年程度)。
ただし注意点として、
「この形で勝てているから大丈夫」
「もう完成に近い」
と判断してしまうと、その後に必要になる技術や体づくりへの取り組みが遅れる可能性があります。
つまり、「早く結果が出る=もう伸びきった」ではないという視点が大切です。
男女共通で言えること
男女で違いはありますが、共通して言えるのは、
成長のスピードではなく、到達点を見ること
これが、海外トップ選手を目標にする際の最も科学的で、最も子どもにやさしい視点だと言えます。
体が成熟していない段階での比較は、意味を持ちにくい
思春期前後の競技力差は、技術よりも
- 身長
- 筋量
- パワー発揮能力
といった身体的要因の影響が非常に大きいことが知られています。
特に男子では、PHV後に筋量と筋力が急増します。
つまり、
- PHV前:技術があっても「体で負ける」
- PHV後:同じ技術でも「急に通用し始める」
という現象は、科学的にごく自然なことです。
このため、「身体成熟がまだ来ていない段階で、海外トップ選手と直接比較すること自体が、評価として成立しにくい」と言えます。
「今の比較競争」が招きやすい3つのリスク
身体成熟にタイムラグがある状態で、海外トップ選手や早熟な同年代と同じ基準で比較し続けることには、いくつかの明確なリスクがあります。
リスク①|正常な成長を「遅れ」と誤解してしまう
13〜15歳前後は、発育の個人差が最も大きい時期です。
この時期に体が完成している選手を基準にすると、
本来は自然な晩熟型
→「才能が足りない」「伸びていない」
と誤って評価してしまいやすくなります。
これは能力の差ではなく、成熟タイミングの違いによるズレです。
リスク②|将来より「今勝つ形」に偏ってしまう
体格差を埋めようとして、
- 無理なパワープレー
- 年齢に合わない負荷
- 勝てる形への戦術固定
に頼りすぎると、成熟後に修正しにくい動きや癖が残る可能性があります。
「今の結果」を追いすぎることが、将来の伸びしろを狭めてしまうこともあるのです。
リスク③|自己評価が下がり、競技から離れやすくなる
自分では変えられない「体の差」で負け続ける経験は、
- 「どうせ勝てない」
- 「頑張っても意味がない」
という気持ちにつながりやすく、思春期の競技継続意欲を下げる要因になります。
約0.8〜1.2年後を「目標時点」に設定するという考え方
ここで重要なのは、「今、追いつくかどうか」ではなく、「体が成熟したときに、どこまで到達しているか」です。
発育研究が示す平均差を踏まえると、
- 海外トップ選手が12.5歳でPHVを迎えているとすれば
- 日本人選手は13.3〜13.7歳頃に同じ局面を迎える
計算になります。
つまり、
海外トップ選手を“今の比較対象”にするのではなく、
約0.8〜1.2年後の自分の姿を重ねる目標として見る
この視点の方が、身体発達の現実に即した合理的な見方なのです。
「追いつける可能性が高い」と言える理由
日本人選手の特徴として、多くの研究が指摘しているのが、
- 身長の伸びが落ち着いた後に
- 筋量・筋力が増えやすい
という発育パターンです(国立スポーツ科学センター ジュニア発育研究)。
これは、
- 思春期前半:見劣りしやすい
- 思春期後半〜成熟期:パフォーマンスが急伸しやすい
ということを意味します。
実際、国際大会で活躍する日本人選手の多くが「ジュニア前半では突出していなかった」キャリアを持つことも、この発育特性と整合します。
比べる相手を「変える」だけで、見える景色は変わる
科学が示しているのは、とてもシンプルな事実です。
- 日本人は、平均で約1年、体の成熟が遅い
- それは欠点ではなく、時間軸の違い
- だからこそ、今、海外トップ選手と比べる必要はない
- 約0.8〜1.2年後の到達点を目標にすれば、体が成熟した段階で追いつける可能性は十分にある
子どもの成長は、早送りできません。
でも、正しい時間軸で見てあげることはできます。
引用元
- Malina, R. M. et al. (2004). Growth, Maturation, and Physical Activity
- Tanner, J. M. et al. (2001). Assessment of Skeletal Maturity
- 日本小児内分泌学会 成長評価指針
- 国立スポーツ科学センター(JISS)ジュニア発育研究
- 世界保健機関 成長基準の考え方

