スポーツ開始前の「健康チェック」が未来を守る ― 若年アスリートの新しい評価基準とは

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「プレーを始める前の“10分”が、けがの1年を変える。」

子どもの競技生活が本格化するにつれ、「どこまでやらせて大丈夫?」「けがを防ぐには?」という不安を抱く保護者も多いでしょう。

米国の整形外科医チームが2025年に発表した最新レビューでは、若年アスリートのための「プレ参加評価(Preparticipation Evaluation:PPE)」が、単なる健康診断ではなく、未来のけが予防とメンタルサポートの出発点として見直されています。

目次

プレ参加評価(PPE)とは何か

PPEとは、競技に参加する前に行う包括的な健康チェックで、

① 参加を制限すべき健康・けがリスクの発見
② 過去のけがの再発防止
③ 成長期アスリートへの個別アドバイス

の3つを目的としています。

この10年でPPEの重要性は高まり、米国では小学生から大学生まで、約6,000万人の若者がスポーツに取り組む中で、整形外科医・小児科医・理学療法士がチームで子どもを支える体制が広がっています。

新たに重視される「心」と「代謝」

今回のアップデートでは、従来の心臓・呼吸・筋骨格系チェックに加え、

エネルギー不足症候群(RED-S)
・不安・うつなどメンタル面の評価

が大きく取り上げられました。

RED-Sは「摂取エネルギー<消費エネルギー」の状態で、女子選手だけでなく男子にも見られる症候群です。疲労や集中力低下、骨密度の低下を引き起こし、長期的には競技生命に影響する可能性があります。

また、うつ症状や不安傾向のある選手はけがのリスクが高いことが報告され、PPEで早期発見・相談の機会を設けることが推奨されています。

スポーツ時間とけがのリスク

米国整形外科学会やIOC(国際オリンピック委員会)は、「週あたりの練習時間が年齢を超えないこと」「自由遊びとの比が2:1を超えないこと」を推奨しています。

たとえば、12歳なら練習時間は週12時間以内が理想

1つの競技に特化しすぎる“スポーツ特化(specialization)”が進む中、やりすぎがけがを呼ぶことが多くの研究で示されています。

チェックすべき「体のサイン」たち

最新のPPEでは、次のような項目が重視されています。

心疾患リスク(突然死予防の14項目質問)
既往のけがとリハビリ状況
関節のゆるさ(Beightonスコア)
脳振とうの既往と自己申告
サプリ・薬物の使用確認

これらを基に、整形外科医やトレーナーは個別のトレーニング・リハ計画を立て、早期介入につなげます。

それぞれを具体的に見てみましょう。

🩺 心疾患リスク(突然死予防の14項目質問)

スポーツ中の突然死を防ぐために最も重要な項目です。

「運動中に胸が痛くなったことはないか」「家族に若くして心臓病や突然死を経験した人はいないか」など、アメリカ心臓協会が定めた14の質問をもとに確認します。

家庭でも、「運動で息苦しそうにしていないか」「失神の経験がないか」を観察することが大切です。

🦵 既往のけがとリハビリ状況

過去にねんざ・骨折・靭帯損傷などをした部位は、再発リスクが高いといわれます。

医師やトレーナーが、けがの部位・治療内容・回復度合いを確認し、必要に応じて予防トレーニングを提案します。

家庭では、「まだ痛みが残っていないか」「動きをかばっていないか」を日常の様子から見てあげましょう。

🤸‍♀️ 関節のゆるさ(Beightonスコア)

「体が柔らかい=良いこと」と思われがちですが、実は関節がゆるすぎると、靭帯や筋肉のけがが増えることがあります。

Beightonスコアでは、ひじ・ひざ・指など9項目をチェックして点数化。一定以上なら注意が必要です。

親が見てもわかる目安としては、「反り腰」「関節を伸ばしすぎる動作」「姿勢が不安定」がある場合、体幹や安定性トレーニングを取り入れるとよいでしょう。

🧠 脳振とうの既往と自己申告

頭を打ったあとに「ぼーっとした」「吐き気があった」経験はありませんか?

軽い症状でも、繰り返すと集中力低下や記憶障害につながることがあります。

PPEでは、過去の脳振とう回数や回復までの日数を確認します。

家庭では、転倒や衝突後に「すぐに動けるか」「話がかみ合っているか」をチェックし、少しでも違和感があれば無理をさせず受診を。

💊 サプリ・薬物の使用確認

「栄養補助」として飲んでいるサプリや、風邪薬・花粉症薬にも注意が必要です。

一部の成分は競技団体の禁止物質リストに含まれており、知らずに摂取すると出場停止になることもあります。また、エナジードリンクや筋肉増強系サプリの過剰摂取は肝機能や心臓への負担にもつながります。

親子で一緒に、「何を、どの目的で飲んでいるのか」を確認する習慣をつけましょう。¥

このようなチェックを家庭でも意識しておくと、医師によるPPE(プレ参加評価)での話がより具体的になり、けがの予防と長期的な競技継続につながります。

医療の“ホームグラウンド”での評価を

米国小児科学会は、学校や団体での集団検診よりも、かかりつけ医(medical home)での実施を推奨しています。

選手と医療者との信頼関係を育み、発育や心理面を含めた継続的サポートを行うためです。

一方で、大学やプロ志向の選手では専門医が個別に評価する仕組みも整いつつあります。

「未来のけがを防ぐ」のは“今の対話”

PPEは、病気を見つけるだけの検査ではなく、子どもと医療者・家族が「これから」を話す時間です。

どんなに才能があっても、健康がなければプレーは続きません。

体と心、そして生活習慣を見つめ直すその一歩が、子どもの安全な挑戦を支えるのです。

引用元

Plassche, G.C. et al. (2025). The preparticipation evaluation of the young athlete—an update to what the orthopedic surgeon needs to know. Frontiers in Sports and Active Living, 7:1650463.

https://www.frontiersin.org/journals/sports-and-active-living/articles/10.3389/fspor.2025.1650463/full

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