“同じ練習”でも、心と体の伸び方はひとりひとり違う。
子どものテニスを見ていると、「同じ練習をしているのに、なぜ成長のスピードが違うのだろう?」と感じることはありませんか。
ポーランドで行われた最新の研究(Waldzińskiら, 2024)は、10〜12歳の男女180名を1年間追跡し、運動協調力とテニス技術の発達を詳しく調べました。
その結果、男の子と女の子、年齢によって“伸び方のリズム”がまったく異なることが分かったのです。
10〜12歳は「体を操る力」が花開く時期
研究に参加したのは、ポーランド国内ランキング上位のジュニア選手たち。
彼らは週3〜4回、約1時間半のテニス練習を続けながら、1年に4回、運動協調力と技術のテストを受けました。
運動協調力とは、体を思い通りに動かす力。たとえば反応速度、バランス、ボールとの距離感やタイミングなど――テニスの動きを“なめらかに”する基盤のことです。
結果を見ると、どの年代も1年間で確実に進歩していました。
10歳では「バランス能力」がぐんと伸び、11歳では「ストロークの精度」、12歳では「反応の速さと手の正確さ」が大きく発達。
年齢が上がるほど、基礎的な動きから“戦える技術”へと成長の焦点が移っていくことが明らかになりました。
男の子は「技術で伸び」、女の子は「安定性と反応」で成長する
面白いのは、男女の違いです。
全体的に、男の子の方がテニスの技術テスト(100球テストや壁打ち)で高いスコアを出しました
ボールのスピードや威力を高める力では、やはり男子が優位に立ちます。
一方で、女の子は「バランス」や「複雑反応(複数の刺激に反応する力)」の伸び率が高いことが分かりました。
つまり、男子はパワーとスピード、女子は安定性と判断の速さ――それぞれ違う“得意の伸び方”を見せていたのです。
研究チームは、体のつくりや神経系の発達段階の違いが関係していると分析しています。
女子は重心が低く、もともと姿勢を保つ力に優れるため、安定したフォームを身につけやすい。
一方の男子は、手と目の協応動作(ハンド・アイ・コーディネーション)が早く発達する傾向があり、反応や打球スピードの向上に結びつくのです。
「同じ練習」を、どう活かすか
多くのクラブでは、10〜12歳までは男女が同じメニューで練習しています。
しかしこの研究は、「同じ練習でも、得るものはそれぞれ違う」ことを教えてくれます。
たとえば、女子選手には安定性を活かした持久的なリズム練習や、フォームを崩さず打ち続けるドリルが効果的です。
男子選手には、反応速度や方向転換を強化するフットワーク練習を少し多めに取り入れると、特性をより活かせます。
重要なのは、“差”を競うことではなく、“違い”を理解すること。
コーチや親が「いまこの子に必要なのは何か?」を見極めてあげることで、練習の質はぐっと上がります。
家庭で育てる「協調力」――日常がトレーニングの場に
研究の裏側にあるメッセージは、「運動協調力は、練習場だけで育つものではない」ということです。
テニスの土台となる反応やバランスは、家でも十分に伸ばせます。
たとえば、
歯磨き中の片脚立ち:目を閉じてバランスをとる練習に。
壁当てキャッチ30秒チャレンジ:右手で投げて左手でキャッチ、テンポを楽しみながら。
合図ゲーム:親が声や色カードでスタートの合図を出し、子どもが素早く反応する。
大切なのは、「正確にできた回数」を一緒に喜ぶこと。
その積み重ねが、“自分の体を思い通りに動かす感覚”を育てていきます。
“比べない”視点が、子どもの力を引き出す
研究の結論は明快でした。
10〜12歳の発達は、年齢・性別・課題によって異なるリズムを持つ。
そして、男の子は技術とパワー、女の子は安定と反応というそれぞれの得意分野を伸ばしていく。
「うちの子はまだスピードが遅い」「フォームが安定しない」と焦る必要はありません。
その子がいま伸びている部分――バランスか、反応か、技術か――を見つめ、そこを一緒に育てていくこと。それこそが、成長期のテニスにおける最大のサポートなのです。
引用元
Waldziński, T. et al. (2024). One-year developmental changes in motor coordination and tennis skills in 10–12-year-old male and female tennis players.
BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation, 16:190.
https://bmcsportsscimedrehabil.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13102-024-00978-3?utm_source=chatgpt.com

