「海外挑戦は、適切なタイミングと準備が整った選手だけが価値を得られる。」
ジュニアテニスの家庭が必ず一度は直面するテーマがあります。
「海外、行ったほうがいいのかな?」
「日本だけで戦ってて大丈夫なのかな?」
「周りがみんな海外行ってる気がする…」
SNSや噂話、他の選手の成功例。
情報はあふれているのに、「正解」はどこにも書いていない。
そして、多くの家庭が不安の中でこう考えます。
「早く行かないと遅れるのではないか」 と。
でも――
現場を見ていると、ひとつだけ確かなことがあります。
海外に行って伸びる選手もいる。
でも、海外に行って苦しむ選手も、同じくらいいる。
この記事では、「海外に行くべきか?」を感情ではなく “現実的な視点”で整理 します。
そして最後に、家庭としてどう考えればいいのか の指針をまとめます。
「海外=正解」ではない。
海外に行けば、必ずテニスが強くなる。
海外に行けば、世界が見える。
海外に行けば、将来が拓ける。
――そう信じたい気持ちは、痛いほど分かります。
しかし現実は、とてもシンプルです。
海外に行くこと自体には、魔法はありません。
海外に行って力を伸ばす選手は、
「海外だから強くなった」のではなく、
“海外に行く準備が整った状態で行った”から伸びた。
このケースが圧倒的に多い。
逆に、「行けばなんとかしてくれる」と期待して渡った選手ほど、途中で迷子になり、苦しんでしまうことが少なくありません。
そもそも海外遠征はどれほど普及しているか?
世界ジュニアの国際大会の代表的な一つに、ITFワールドテニスツアー ジュニアがあります。
このツアーは、13歳から18歳までのジュニア選手が参加できる世界共通の国際大会で、世界各地で開催されています。
ITFジュニアの報告によると、ITFワールドテニスツアージュニア大会に出場した選手は19,285名(男子10,633名、女子8,652名)で、2024年の過去最高記録18,505名を更新しました。
つまり、世界レベルを目指すなら 日本国内に留まらず“世界のフィールドで戦う”こと自体が、すでに多くの選手の現実的な選択肢になっているということです。
さらに、データ上でも ランキングの上位選手ほど多くの大会に出場している傾向があり、上位日本人選手は年間で平均13大会程度出場しています。
これは、ほぼ毎月1回以上海外大会に遠征している計算になります。
海外遠征・海外拠点の“リアルな費用感”
本気で「世界」を見据える場合、海外遠征は単なる遠征費ではなく、拠点づくり・帯同・教育まで含む “総合投資” になります。
- 海外に拠点を置く
- ITF大会を転戦する
- トレーナー・分析・帯同がセット
- 語学・教育・生活費も含む
年間の目安は、最低500万円、充実させれば3,000万円超にも至ります。一般家庭にとっては、家族の人生をすべて巻き込む大きな選択になります。
「海外がプラスになる選手」と「危険になる選手」の違い
ここが、最も大事な視点です。
海外が“武器になる”選手の共通点
- 日本国内ですでにある程度「勝つ習慣」がある
- 「練習 → 修正 → 成果」という 成長サイクルを理解している
- 「やらされる」ではなく、“自分で取りにいく姿勢”が強い
- ある程度の自立心(親依存が薄い)
- 環境変化に耐えられるメンタル
- ある程度の語学対応 or コミュニケーション能力
海外は、ただ練習する場所ではありません。
「自分で生き、自分で考え、自分で戦う場所」です。
これができている選手ほど、海外は「飛躍の場所」になります。
逆に、海外が“リスクになる”ケース
- 日本国内でまだ“土台づくり途中”
- 「今の停滞を海外が解決してくれる」と考えている
- 親主導で、本人の覚悟が弱い
- 「とりあえず海外」という漠然とした動機
- 海外に行くことが“目的”になっている
こうしたケースで海外へ飛び込むと、
- テニスが伸びない
- メンタルが追いつかない
- 自信を失う
- 「日本にいた方がよかったのでは…?」と後悔する
という現実に直面してしまうことがあります。
「いつ行くべきか?」年齢別・現実ガイド
ここを、一番丁寧に整理します。
小学生
「海外を知る」だけで十分
- 短期キャンプ
- 国際大会の観戦
- 体験的な海外遠征
――これは、とても良い経験です。
ただし、常駐留学や“海外中心の生活”は、正直まだリスクが大きい。
この時期で一番大切なのは、
- 体づくり
- 技術の基礎
- 何より「テニスが好きでい続けること」
海外は、“刺激”として経験するくらいが最適ゾーンです。
中学生
「本格的に選択が始まる時期」
ここが、最大の分岐点。
- ITFに挑戦し始める
- 競技として本気度が高くなる
- “国内の枠”をどう超えるか考え始める
ここで重要なのは、
「海外に行くか?」ではなく、
「海外に“何を求めて行くのか”」
- 世界のスピードに慣れたい?
- ライバルの質を変えたい?
- 自立した競技環境に身を置きたい?
“目的が明確なら” 海外は大きな価値を持ちます。
高校生
「競技人生の戦略選択」
ここでは、もはや「行く・行かない」ではなく、“どの道で勝負するか” の段階です。
- 日本の高校テニス中心でいくのか
- 日本を拠点に大会中心でいくのか
- 完全海外常駐でいくのか
- 将来プロか、進学かも含めて考えるか
つまり、
ここでの海外は、「夢」ではなく「戦略」 です。
目的のない海外挑戦は、危険。
海外へ行くこと自体がゴールになってしまうと、ほぼ確実に失敗します。
- 「海外に行けば伸びる」
- 「海外だから変えてくれる」
- 「海外なら何とかしてくれる」
――こうした考え方は、選手自身の成長責任を“環境任せ”にしてしまいます。
しかし現実は、
海外は、「何もしてくれない世界」です。
だからこそ、
海外は「特別な場所」ではなく、
“適切なタイミングで踏み込む場所” であるべきです。
海外挑戦が“意味を持つ条件”
家庭として、このあたりをひとつの判断基準にしてみてほしいです。
✓日本でやれることは、相当やってきたか?
✓「海外へ逃げる」のではなく「海外で戦いたい」か?
✓本人の意思が“意欲”ではなく “覚悟”に変わっているか?
✓競技人生としての意味が明確か?
✓経済的にも、精神的にも、無理のない形か?
それでも、海外には確かな価値がある。
ここまで現実的な話をしてきましたが──
私は、海外挑戦自体を否定したいわけではありません。
むしろ、
適切なタイミングで踏み込めるなら、海外は素晴らしい選択肢です。
海外がくれるもの。
- 自立
- 競技者としての覚悟
- 世界基準のテニススピード
- 多様な価値観
- 人としての厚み
これらは、“人生を変える経験”になることが本当にあります。
だからこそ、
「焦って行く場所」ではなく
「準備が整ったときに、“選んで行ける場所”であってほしい。
「早く行く」ではなく、“最適なタイミングで行く”
海外に行ったかどうかで、選手の価値が決まるわけではありません。
- 日本で戦い続けて伸びていく選手もいる
- 海外で開花する選手もいる
- 途中で戻ってきて強くなる選手もいる
小さな正解ではなく、“あなたの家庭に合った答え”があればいいと思うのです。
最後に、ひとつだけ伝えたい言葉があります。
いちばん大切なのは、「海外に行ったかどうか」ではなく、
“その選択に、家族と本人が納得しているかどうか”です。
それが、選手の強さになり、家族の支えになり、競技人生を守る力になります。

