「どの年代で、どれくらいできれば“競技レベル”なのか。世界基準がヒントをくれます。」
ジュニア指導では、「今の実力は年齢相応なのか?」「世界の競技ジュニアと比べてどうか?」という疑問が常につきまといます。
今回紹介するのは、世界8008人の“競技ジュニアテニスプレーヤー”を対象にした大規模レビュー研究。そのデータからは、各年齢での体力基準だけでなく、どのレベルの選手を想定した指標なのかも明らかになっています。
お子さん・教え子の現在地を、より正確に捉えるためのコラムとしてまとめました。
この研究が扱ったのは「本気で競技をしているジュニア」
この研究で扱った選手層については、明確に “competitive youth tennis players(競技ジュニア)” と定義されています。
つまり対象は、
- 試合に継続的に参加している
- クラブやアカデミーで競技として取り組んでいる
- 地域大会〜ナショナル(国内トップ)レベルを含む
- ケガのある選手は除外
- 「レクリエーション層(習い事としてのテニス)」は含まれない
という、“競技者としての活動実態があるジュニア”に限定されています。
被験者は次のような背景を持っています:
- スペイン、ドイツ、トルコなどテニス強国の競技選手
- 各国の強化プログラム所属(例:ナショナルセンター、強化クラブ)
- 地方〜全国大会レベルのランキング選手
- 集団によってはプロ育成アカデミーのジュニアも含む
つまり、「世界の競技ジュニア標準」として読めるデータです。
どの国のジュニアが多い?世界の分布を見る
研究では 18カ国 のデータが収集され、その内訳は以下の通りです:
- スペイン(12研究)
- トルコ(6研究)
- ドイツ(4研究)
- そのほか、オーストラリア、ベルギー、日本、南アフリカ、アメリカなど
特にスペイン・ドイツ・トルコの比率が高い理由として、
- テニス文化が強く競技人口が多い
- U12〜U18の育成システムが確立
- 体力測定やフィジカルデータの蓄積に積極的
などが考えられます。
“世界の競技ジュニア”と言ったときに、主にヨーロッパ系の競技者像が反映されている点は理解しておくと良いでしょう。
日本のジュニアと比べるときの3つの注意点
① 発育(身長・筋量)の差
日本とヨーロッパでは平均身長が異なるため、ジャンプや投擲、スプリントでは差が出やすいことがあります。
② サーフェスと練習環境
欧州はクレーが中心で、フットワークや耐久性を重視した練習が多い傾向があります。
→ スプリント・敏捷性の基準値がそれを反映している可能性も。
③ 測定文化の違い
欧州の育成現場では、U10からの定期的な体力測定が標準化されています。
→ データの蓄積量・測定方法の統一性で、日本は遅れている部分もあります。
そのため、数値だけを「日本の基準」とは捉えず、あくまで“世界の競技ジュニアの中での位置”として判断するとよいでしょう。
年齢別“これくらい”で見える、あなたの選手の現在地
20mスプリント
| 年代 | 男子 | 女子 |
|---|---|---|
| U10 | 3.37秒 | 3.57秒 |
| U14 | 3.48秒 | 3.57秒 |
| U16 | 3.30秒 | 3.72秒 |
| U18 | 3.09秒 | 3.38秒 |
▶ U16では、男子が平均 3.30秒 と大きく向上。女子は 3.72秒 と個人差が大きい年代。
CMJ(垂直跳び)
| 年代 | 男子 | 女子 |
|---|---|---|
| U10 | 約30cm | 約29cm |
| U14 | 約35cm | 約28cm |
| U16 | 約39cm | 約32cm |
→ 男女差は U14ごろから顕著に。
サーブ速度
| 年代 | 男子 | 女子 |
|---|---|---|
| U12 | 144.8 km/h | 122.0 km/h |
| U14 | 157.4 km/h | 146.5 km/h |
| U16 | 176.3 km/h | データなし |
| U18 | 177.4 km/h | データなし |
→ 肩の可動域(内旋IRの低下)が年齢とともに起こるため、サーブ強化にはケアの徹底が必須。
肩の可動域 外旋(ER:External Rotation)
| 年代 | 男子・利き腕 | 男子・非利き腕 | 女子・利き腕 | 女子・非利き腕 |
|---|---|---|---|---|
| U10 | 83° | 82° | ― | ― |
| U11 | 83° | 79° | ― | ― |
| U12 | 85° | 83° | ― | ― |
| U13 | 109° | 102° | 114° | 106° |
| U14 | 105° | 89° | 110° | 107° |
利き腕(Dominant)は外旋が大きく、成長とともにさらに増える傾向。
女子は男子より外旋が大きい年代もある。
肩の可動域 内旋(IR:Internal Rotation)
| 年代 | 男子・利き腕 | 男子・非利き腕 | 女子・利き腕 | 女子・非利き腕 |
|---|---|---|---|---|
| U10 | 72° | 77° | ― | ― |
| U11 | 66° | 74° | ― | ― |
| U12 | 69° | 76° | ― | ― |
| U13 | 43° | 53° | 99° | 102° |
| U14 | 58° | 73° | 76° | 81° |
男子は利き腕IRが年齢とともに減少 → サーブ増加による「GIRD(内旋制限)」傾向。
女子は利き腕でもIRが大きく、男子ほど低下しない。
握力 利き手
| 年代 | 男子 | 女子 |
|---|---|---|
| U10 | 27.0kg | 27.3kg |
| U12 | 28.6kg | 28.9kg |
| U13 | 40.2kg | 34.2kg |
| U14 | 45.0kg | 31.5kg |
| U15 | 49.1kg | 37.7kg |
| U18 | 49.9kg | 35.8kg |
男子はU13以降に急上昇。女子は緩やかに増加。
握力 非利き手
| 年代 | 男子 | 女子 |
|---|---|---|
| U10 | 22.6kg | 23.5kg |
| U12 | 21.8kg | 25.0kg |
| U13 | 34.4kg | 30.9kg |
| U14 | 41.6kg | 27.0kg |
| U15 | 43.7kg | 35.6kg |
| U18 | 42.5kg | 33.5kg |
左右差が一部の年代で大きく、ケガ予防の観点で注意が必要。
この基準をどう活かす?明日からできる活用法
①強みと弱みの“見える化”
同年代の平均と比較することで、「スプリント型」「パワー型」「スタミナ型」など選手の特徴が見えやすくなります。
②発育段階の理解
研究では、女子は12歳前後、男子は14歳前後で身長の急伸期(ピークハイトベロシティ)に入ると説明されています。
→ 一時的な動きのぎこちなさは“正常な成長”と理解でき、過度な指導ミスを防げます。
③ケガ予防
特に利き腕の肩内旋の低下(IRの減少)は、研究でもリスクとして指摘されています。
→ 記録を残しておくことで“異変の早期発見”が可能に。
数値はゴールではなく、成長を支えるための“道しるべ”
世界8008人のデータは、ジュニア育成の新しい地図のようなものです。
そこには「この年代で、世界の競技ジュニアはこれくらいできている」というリアルが詰まっています。
ただし、
- 個々の発育スピード
- 技術レベル
- 練習環境
これらは選手ごとに大きく異なります。
基準値は、決して“比較して落ち込むため”ではなく、「どこを伸ばすか?」を見つけるためのヒント。
今日より明日、ほんの少し成長できれば、それが何より価値ある一歩です。

