前回、「ジュニアテニスにかかる費用の現実」について書いたところ、たくさんの反響をいただきました。
ありがとうございます。

しかし皆さんきっと、心でこう思ったのではないでしょうか。
「現実は分かった。
じゃあ、どうすればお金の負担を減らせるのか?」
結論から言えば――
ジュニアテニスの世界には、
- 財団・基金の奨学金
- 企業やメーカーによるサポート
- 自治体の助成制度
- 新しいスポーツ支援ファンド
- 個人の努力による自己調達
こうした “家族だけで戦わなくてもいい仕組み” が、確かに存在しています。
ただし、そこには “希望” と同時に “現実” もあります。
この記事では、「選手レベル別」に“現実的に活用できる支援”を整理していきます。
国内中心・全国大会を目指す層(小学生〜中学生・国内大会がメインの選手)
国内中心選手の「リアル」
- 練習量が増える
- エントリー費・遠征費が積み上がる
- でもまだ海外常駐やフルITFという段階ではない
ここで負担になってくるのは、「日常的に“積み重なっていく”お金」です。
そのお金を軽減するための支援制度についてご紹介します。
①自治体の助成・激励金
実は――
都道府県や市町村が、ジュニアアスリートを応援する制度を持っているケースが少なくありません。
例えば:
- 川崎市個人型トップアスリート助成制度
川崎市では、市内在住・在学のジュニア選手を対象に、練習費・大会遠征費・エントリー費・競技用具購入や整備費などを助成。 - 福岡市スポーツ大会出場補助金制度
福岡市では、全国大会・国際大会等に出場する競技者を対象に、参加費・遠征費・宿泊費などの一部を補助する「競技スポーツ選手支援補助金」を実施しています。
これらはあくまで一例。
名称は違っていても、
- 「スポーツ振興助成」
- 「競技者育成支援」
- 「遠征費補助」
- 「スポーツ激励金」
こうした制度が、実は全国各地にあります。
“住んでいる自治体名+スポーツ+助成” で一度検索してみてください。
「知らなかったけど対象だった」というケースは本当に多いです。
②民間財団のサポート
- ゴールドウイン西田東作スポーツ振興記念財団
スポーツアパレルメーカー・ゴールドウインによる財団。ジュニアの成長段階での挑戦継続を後押しする制度として活用できます。
さらに、下記のような地域に特化した財団も存在します。
- No.1財団高松(一般財団法人の・いち財団)
高松市出身・高松市在住・高松市に縁のある個人や団体を対象に、競技活動に必要な費用の助成や遠征支援などを行っています。
必ずしも “世界トップじゃないと対象外” というわけではありません。
“挑戦を続ける若い選手” を応援する制度があります。
③メーカーとの契約(ラケット・シューズ・ガット・ウェアなど)
一番、身近な支援として知られるのが メーカーとの契約 です。
メーカーと契約することにより、用具の一部の費用をメーカー側がサポートしてくれる仕組みです。
代表するメーカーが下記です。
- YONEX
- HEAD
- Prince
- Babolat
- Wilsonなど
契約の形はさまざまですが、
- ラケット提供
- シューズ支援
- ガット費の軽減
- ウェア提供
など、“日常的にかかる用具費の負担” を大きく軽減できる可能性があります。
「メーカー契約=全国トップ選手だけ」ではない
多くの保護者が、
「そんなの、全国優勝レベルじゃないと無理でしょ?」
と思っていますが、実は現実は少し違います。
メーカー契約の仕組み
ジュニアのメーカー契約は、“選手個人” ではなく、“所属クラブチーム経由” で行われるケースが圧倒的に多いようです。
つまり、
- クラブがメーカーと包括契約を結ぶ
- その枠の中で、チーム所属選手が対象になる
- さらに伸びてくる選手が優遇されていく
というイメージです。
メーカーの契約の種類
選手の戦歴によってさまざまですが、ジュニアでは「半契(はんけい)」と言われる50%オフからスタートするのが基本です。
そこから戦歴によって、「○○万円+50%オフ」と無料提供の金額が上がり、すべて無料という契約に移っていきます。
海外では用具の無料提供のほかに契約金を別途支給されているジュニアがいるそうで、日本人選手のなかには、日本での契約をやめて、海外メーカーと直接契約するという選手もいるようです。
「待つ」のではなく、「動く」ことが現実的
重要なのは、「メーカーから声がかかるのを待つ」のではなく、クラブチームとして、メーカーへ働きかけること。
経験のあるクラブほど、この動きをきちんとやってくれます。
私のまわりで、全国大会に出場経験があるにもかかわらず、メーカー契約をしていない選手がいました。そこで、「コーチにお願いしてみたら?」とアドバイスしたら、すぐに契約に至ったそうです。選手の保護者は、「早く聞けばよかった」と悔やんでおられました。
地方大会レベルでも「チャンスは十分にある」
中には全国大会に出場経験がなくてもメーカーと契約している選手もいます。
特に、
- 地方大会常連レベル
- 安定して結果を出し始めている
- 将来性が見える
- 競技への姿勢が良い
こうした選手は、メーカーにとっても「育てたい存在」 です。
つまり――
メーカー契約は、“遠い世界の話” ではありません。
ITF挑戦・国内トップ層(中学生後半〜高校前期)
ここが、最も“お金の現実”が重くのしかかるゾーン です。
国内トップ選手のリアル
- ITFに出始める
- 遠征回数が増える
- 宿泊費・交通費・帯同費が一気に膨らむ
- 「続けられるかどうか」の岐路
だからこそ、選手を支える制度がとても重要 です。
①大型〜中規模奨学財団
| 財団名 | 支援内容 | URL |
|---|---|---|
| G7奨学財団 | G7ホールディングスグループが設立した財団。競技活動にかかる費用を対象に、年間最大約200万円の奨学支援を提供。 | https://g-7foundation.or.jp/sports.html |
| ヨネックススポーツ振興財団 | ヨネックス株式会社が母体の公益財団法人。競技活動費・遠征費などを対象に、年間最大約360万円の奨学金支援を実施。 | https://www.yonexsports-f.or.jp/shougaku.html |
| ノエビアグリーン財団 | 株式会社ノエビアを母体とするスポーツ・文化支援財団。競技活動費の助成や遠征支援など、年間最大約300万円の奨学金支援を実施。 | https://noevirgreen.yoshida-p.net |
| ゴールドウイン西田東作スポーツ振興記念財団 | スポーツアパレルメーカー・ゴールドウインによる財団。奨学金や遠征費助成など、年間最大約50万円の奨学金支援を実施。 | https://www.goldwin-zaidan.or.jp |
※年度によって条件や金額が変動
これらは、“諦めずに挑戦を続けるための支援”という色合いが強い制度です。
② 新しい流れ
最近、新しいファンド(財団)が立ち上がり、ジュニア選手への支援の輪が広がっています。
| 名称 | 支援内容 | URL |
|---|---|---|
| Japan Tennis Rising Fund | マネーフォワードの辻庸介氏をはじめ、複数の起業家が立ち上げたテニス支援ファンド。Rafa Nadal Academy(ラファ・ナダルアカデミー)への留学支援を実施。 | https://jtr-fund.org |
| Rising Stars Project | 株式会社SmartDriveなどの企業連携による次世代アスリート支援プロジェクト。「移動」「成長」「環境」への支援として、最大年間300万円の支援金を提供。 | URL |
※年度によって条件や金額が変動
これらの動きは、「本気でジュニアを育てようとしている」という新たな動きの象徴です。
本気の世界挑戦・海外常駐クラス(高校後半〜プロ志向)
ここからは、“覚悟の世界” です。
世界に挑戦する選手のリアル
- IMG Academy
- Rafa Nadal Academy
- 世界常駐で戦う選手たち
- 年間 500万〜1000万超も珍しくない
これは贅沢ではありません。
世界を狙うための“現実的コスト” です。
ハードルはかなり上がりますが、このような選手をサポートする団体が存在します。
①盛田正明テニスファンド(MMTF)
世界に通用する日本人テニスプレーヤーを数多く輩出してきた海外留学支援基金。
これまでに錦織圭、西岡良仁、望月慎太郎ら、日本男子テニスを牽引するそうそうたる顔ぶれを輩出しています。
盛田ファンドの支援内容
- アカデミー費
- 寮費
- トレーニング費
- 遠征費
など、あらゆる費用をサポートする圧倒的制度。
盛田ファンドの応募資格(2025年度選考)
- 「全国選抜ジュニアテニス選手権」又は「全日本ジュニア選手権」のU-14男子シングルス、女子シングルスにおいてベスト4以上の日本人(日本国籍)ジュニア選手
- 「全国選抜ジュニアテニス選手権」又は「全国小学生テニス選手権」又は「全日本ジュニア選手権」のU-12男子シングルス、女子シングルスにおいてベスト4以上
※本記事は2025年度情報を基に記載しています。最新条件は公式発表をご確認ください。
「才能があるのに、経済的理由で世界に挑めない」――
そんな選手を救い、本物の世界挑戦へ送り出す、日本が誇る代表的奨学制度です。
②江副記念リクルート財団
リクルートグループの社会貢献活動として設立された公益財団法人。
HP:https://www.recruit-foundation.org/scholarship
年間最大約 1,000万円規模の奨学・活動支援が可能。
単なる遠征支援にとどまらず、“世界で戦う覚悟を持った才能”を、世界トップ水準で支えるための制度。
まさに 「世界基準の挑戦」を現実にするための財団 です。
これまでは、齋藤咲良選手、山本晄選手、内島萌夏選手、クロスリー真優選手など、テニス女子選手が選ばれています。
リクルート財団の選考基準
江副財団は、非常にレベルの高い選考で知られています。
見られているのは、主に次のようなポイントのようです。
- 明確な国際的競技実績
→ 「世界を狙える選手」か - 世界で結果を出す可能性
→ 成長曲線・年齢・将来性 - 競技への覚悟と主体性
→ ただ強いだけではなく、競技に対する姿勢 - 人間性・社会性
→ 財団が支援するに値する人格かどうか - 社会的意義
→ 「この選手を支える意味があるか」
江副財団は “結果が出ている選手” ではなく、「日本の未来のトップを背負える人材」 を選ぶ財団です。
③IMG / ナダルアカデミー奨学制度
世界トップアスリートを輩出してきた名門アカデミーによる奨学制度。
トレーニング費用の軽減、滞在サポート、海外挑戦に必要な環境支援など、“世界最高峰の育成環境” へアクセスするための支援が受けられる仕組みです。
つまり、「世界の名門が、あなたの挑戦に投資する」という世界です。
名門アカデミーの選考基準
印象としてはIMGが「才能発掘型」、ナダルアカデミーが「育成対象の見極め型」の要素が濃いと感じます。
さらに、双方ともにポテンシャルだけで判断せずに、IMGではアカデミーの育成方針との適合(うちで育てたい選手かどうか)、ナダルアカデミーでは人間性・態度(メンタル・学習姿勢・礼儀・協調性)を優先するという話はよく聞きます。
通常のキャンプに申し込み、その際に見てもらうという流れになるかと思います。キャンプに申し込む際に、選考してほしいことをデスクに伝えると良いでしょう。
「自己調達」という選択肢もあり
自身で資金を調達するという選択肢も考えられます。
考えられる2つの候補について紹介します。
①クラウドファンディング
インターネット上で支援を募り、遠征費や競技活動費を集める方法。多くの人に応援してもらえる一方で、手数料や情報発信の負担があるため、仕組みを理解した上で活用したい制度です。
クラウドファンディングのメリット
- 多くの人から応援を受けられ、心理的な支えにもなる
- 遠征費や活動費を一度にある程度まとめて確保できる
- 選手の存在・活動を世間に知ってもらう発信効果がある
クラウドファンディングのデメリット
- 手数料が高く、想定より実入りが少なくなるケースがある
- All or Nothing 型の場合、目標未達だと資金がもらえない
- プロジェクト運営・情報発信の負担が大きい
個人的な印象としては、メリット以上に負担やリスクも大きい制度だと感じています。
「軽い気持ちで手を出すカード」ではないと。
クラウドファンディングについては、別記事で丁寧に整理したいと思います。
地元企業スポンサー
地元企業や地域団体から支援を受ける形のスポンサー制度。応援してくれる“地域の力”を得られる大きな魅力がある一方で、企業メリットの提示や関係構築など、丁寧なコミュニケーションが求められる支援方法です。
メリット
- 継続的な支援関係になれば、長期的なサポートが期待できる
- “地域の期待を背負う存在”となり、選手の自覚や誇りにもつながる
- 企業との関係が、将来的な社会的つながりにもなる可能性
デメリット
- ジュニア選手だと企業メリットが出しにくく、支援獲得のハードルが高い
- 基本的に「お願いする立場」になるため、心理的負担がある
- 受けた恩義に対して、将来的に何らかの「責任」や「期待」を背負う
- 金額は必ずしも大きくないケースが多い
地域を巻き込めば、大きな力になります。ジュニア選手の中にはうまく活用している選手も多いのではないでしょうか。
最後に――「知ること」がジュニアテニスの力になる
ここまで見てきたように、ジュニアテニスには確かにお金がかかります。
でも同時に、その負担を少しでも軽くし、挑戦を続けるための仕組みも確実に存在しています。
支援制度や奨学金、ファンド、自治体の助成、メーカーサポート……。
これらは特別な家庭だけのものではありません。
「知っているかどうか」、そして 「一歩踏み出して調べるかどうか」 の違いです。
今回紹介したのは、あくまで“代表的な仕組み”の一部です。
地域や競技レベル、タイミングによって、まだ知られていない支援は必ずあります。
だからこそ、
- 情報を知ること
- 活用できる仕組みを選ぶこと
- そして、必要なら勇気を持って頼ること
これらはすべて「親の力」だけではなく、我々、メディアの情報発信力にかかっていると考えています。
このコラムが、「もう少し頑張ってみよう」と思えるきっかけになり、あなたのご家庭の挑戦を、少しでも軽く、そして少しでも遠くへ運ぶ力になれば――それ以上の喜びはありません。


