成長スパート期を味方にする―PHV前後の負荷管理がジュニアテニス選手の“けが”を減らす鍵

テニス中の足首のケガ
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伸びる時期こそ、“がんばり方”を変えるサインです。

ジュニア期のテニス選手にとって、身長がぐんと伸びる「ピーク・ハイト・ベロシティ(PHV)」前後は、技術・体力・心ともに飛躍的な成長が期待できる一方、思わぬケガのリスクが高まる時期でもあります。

今回は、近年の研究をもとに、PHV期をどう捉え、練習・負荷管理・ケガ予防にどう活かすかを保護者と選手に分かりやすくお伝えします。

目次

「ぐんぐん伸びてきた」そのとき、身体の中では何が起きている?

「この半年で一気に身長が5センチも伸びたんです!」

そんな話を耳にすると、つい嬉しくなりますね。
でも同時に、この“ぐんぐん伸びる時期”は、ジュニア選手の身体にとって少しデリケートなタイミングでもあります。

スポーツ科学ではこの時期を「PHV(ピーク・ハイト・ベロシティ)」と呼びます。

PHVは“身長が最も速く伸びる時期”を指し、男子ではおおよそ13〜14歳、女子ではそれより1年ほど早く訪れるとされています(Retzepis et al., 2025/J. Func. Morphol. Kinesiol.)。

このPHV期には、骨が急速に伸びる一方で、筋肉や腱、関節は追いつこうと必死です。その結果、体のバランスや協調性が一時的に乱れ、同じ動作でもいつもより無理な力がかかりやすくなります。

テニスで言えば、サーブのフォロースルーで肩や肘に違和感を感じたり、フットワークのステップで膝や踵を痛めたり――そんな症状が現れやすくなるのです。

実際、成長とケガの関係を調べた最新の研究では、「PHV前後に、使いすぎによるケガ(オーバーユース傷害)が増える傾向がある」と報告されています(Zoellner et al., 2025/ScienceDirect)。

つまり“成長の勢い”そのものが、ケガのリスクを高めるスイッチになっているのです。

「努力しているのに、なぜか動きが重い」――それは成長のサインかもしれない

「最近、動きがぎこちない」「急にショットのタイミングが合わなくなった」

そんな変化に気づいたら、それは“スランプ”ではなく“成長中のサイン”かもしれません。

成長期には重心や手足の長さが変わり、これまでの感覚がズレてしまいます。

身体が伸びても、神経の伝達や筋力が追いつかない――いわば“背伸びをしている状態”なのです。

ジュニアテニスのトレーニング負荷を研究しているジェイミー・フレーザーらの研究では、ジュニアテニス選手を対象に「PHV前後に練習量をそのまま増やすと、ケガの発生率が上がる」と指摘しています。(2019/Sheffield Hallam University

これは単なる“量”の問題ではなく、“体がついてこられるかどうか”という質の問題なのです。

保護者とコーチができる、3つのサポート

では、どうすればこの大切な時期を安全に乗り越えられるのでしょうか。

ポイントは「見て・調整して・休ませる」の3つです。

① 成長のスピードを“見て”あげる

まず、定期的に身長や体重を記録し、“伸び方の変化”に目を向けましょう。

1年間で6〜10cm以上の伸びがあれば、PHV期に入っている可能性があります(Retzepis et al., 2025/J. Func. Morphol. Kinesiol.)。

数字で見ることで、「今、身体が変わっているんだね」と子ども自身も納得しやすくなります。

② 練習負荷を“調整する”

この時期は「やる気がある=やっていい」ではありません。

むしろ、フォームの確認やコーディネーション(動きの調和)トレーニングに時間をかけることが、長い目で見れば“遠回りのようで最短の道”です。

例えば、連日の試合やハードなフィジカルトレーニングは控え、代わりに柔軟性や体幹の安定を高めるエクササイズを中心にするのも良い方法です(Parry et al., 2024/Br. J. Sports Med.)。

③ “休む勇気”を育てる

ケガを防ぐ最大の鍵は、疲労をためないことです。

成長期は、睡眠と栄養、そして「休息の質」が大切です。

体の痛みや違和感を“我慢するのが頑張り”ではなく、“伝えるのが強さ”と伝えてあげてください。

成長を「怖がらず」、味方につけよう

PHV期は、ケガのリスクをはらむ反面、「運動能力がぐっと伸びるチャンス」でもあります。

筋力・神経・骨格が一気に変わるこの時期に、身体を正しく使う感覚を身につけることができれば、将来のプレーの安定感が格段に高まります。

■ワンポイントアドバイス
大切なのは、「いま何を伸ばすべきか」を見極めること。
量ではなく、質。
結果ではなく、プロセス。

その切り替えが、子どもの“長い選手人生”を守る一歩になるのです。

引用元

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tennisphere
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