ゆるむほど、技術は育つ。
サーブで力んでしまう——ジュニアではあるあるのシーンですね。
実はこの“力み”は、実際に打つ時だけでなく、イメージトレーニングの効果にも深く影響することが分かってきました。
最新の研究は、子どもたちが頭の中で思い浮かべる“サーブの感覚”が現実のプレーを大きく変える可能性を示しています。
研究が明確に示したのは「ゆるい握り」が技術を伸ばすという事実
フランスの研究チームは、ジュニア選手18名を対象に、5週間のサーブのイメージトレーニングを実施しました。
選手は以下の2種類に分けられました。
- ラケットを“ゆるく”握ってサーブを思い描くグループ
- ラケットを“強く”握って思い描くグループ
その結果——
どちらのグループもサーブ精度は向上しましたが、“ゆるく握る”グループの伸びが圧倒的に大きかったのです。
サーブ精度スコアの変化は次の通りです。
■サーブ精度スコアの変化
ゆるい握り:13.22 → 20.89
強い握り:13.44 → 16.78
同じイメージトレーニングでも、“どう握って思い浮かべるか”という小さな違いが、結果に大きな差を生んだという驚くべきデータです。
なぜ“ゆるく握る”だけで結果が変わるのか?
研究チームは、その理由を「イメージと実際の動きの一致度」にあると説明します。
① 実際に近い“感覚”が頭の中で再現される
イメージトレーニングは、ただ「打つ場面を思い浮かべる」だけではありません。
- ラケットの重さ
- 手のひらの感触
- スイングの流れ
- ボールを捉える瞬間の手の感覚
こうした細かい体の感覚も含めて思い浮かべることで効果が高まります。
ゆるい握りでは、前腕や手首の緊張が少なく、実際のサーブに近い“滑らかさ”がイメージの中でも再現されます。
② 強い握りは“固いサーブ”を頭の中で練習することになる
ギュッと握ると、
- 手首が固まる
- ラケットヘッドの走りが止まる
- 肩や体幹まで必要以上に力む
という状態になり、本来とは異なる“固い動き”をイメージすることに。
これでは練習効果が薄れるだけでなく、本番での力みを助長してしまう危険性もあります。
③ サーブの精度を決める“微調整”が働く
サーブでポイントになるのは、実は“大きな動き”ではありません。
- トスの位置
- インパクトの角度
- 手首の返り
- ラケットの軌道
- 体重移動のタイミング
こうした繊細な調整が精度を左右します。
ゆるい握りだと、この微調整が頭の中でも自然に再現され、より本番に近いイメージ練習ができるのです。
“技術点が上がった”とは?初心者にも分かる形で解説
研究では、国家資格を持つコーチが選手のサーブ映像をもとに30項目の技術評価を行いました。
しかし「30項目」と言われてもイメージしづらいので、誰にでも分かるように、技術がどう変わったかを具体的に説明します。
① トスの位置が安定した
改善前では、
- 左右にブレる
- 高さが揃わない
- 身体の後ろに落ちる
といったズレがよく見られます。
改善後は、
- 毎回ほぼ同じ場所に投げられる
- 打点に入りやすい位置に収まる
という“良いトス”に近づきました。
② 打つまでの体の流れがスムーズになった
前は、
- 動きに角がある
- 上半身が固い
- 打つまでにふらつく
といった“不安定さ”が見られる選手も。
改善後は、
- トス → 打つ動きが自然につながる
- 体幹のブレが減る
- 軸が整い、体が前へ流れる
といった変化が見られました。
③ ラケットの振り抜きが滑らかに
改善前は、
- 振り抜きが止まる
- 手首が硬い
- ラケットが走らない
という“力んだ動き”でした。
改善後は、
- インパクトからフィニッシュまで滑らか
- ラケットヘッドがよく走る
- 左側までしっかり振り切れる
など、見る人にも“良いサーブ”と思える動きが増えました。
④ インパクト(当たる瞬間)が安定
改善前:
- ボールを上手くつかめない
- 打点が毎回違う
- 前に突っ込みすぎる
改善後:
- 打点の高さや位置が揃う
- タイミングが取りやすくなる
- ボールを“コントロールして打てる”感覚が増える
⑤ 打った後の動きが綺麗にまとまる
サーブは“打った後”まで含めて動作です。
改善後では、
- 自然に前へ体重が乗る
- フォロースルーが大きく・なめらかに
- 着地のバランスが良い
といった、技術的に優れた選手の特徴が多く見られました。
ジュニア期はイメージの力がもっとも伸びる特別な時期
論文では、ジュニア期はイメージ力が発達段階にあるため、
トレーニングの効果が非常に出やすいと指摘しています。
つまり、
「正しいイメージを身につけるほど、将来の伸びしろが大きくなる」
ということです。
特にサーブのような複雑な動きは、イメージの中で動作を整理できるかどうかが、技術の安定性に直結します。
家庭や練習環境でできる“具体的な3つの実践”
① ゆるグリップを子どもと一緒に確認する
練習前に「ラケット、軽く握れてる?」と声をかけるだけでも効果的。
緊張を取る“儀式”になります。
② イメージ練習は短くてOK(3〜10回で十分)
量より質が大切。
短い時間でも、毎日の積み重ねが技術の軸になります。
③ 「どんな感じだった?」と聞いて感覚を言葉にさせる
感覚の言語化はイメージの精度を高め、技術の定着を強化します。
力を抜いて思い浮かべることが、ジュニアの未来を変える
今回の研究が教えてくれたのは、イメージトレーニングには正しいやり方があるということ。
特に、
- ラケットをゆるく握る
- 力みのない動きを思い浮かべる
- 自然なスイングをイメージする
この3つは、ジュニアのサーブを大きく伸ばす可能性を持っています。
「ただ思い浮かべるだけ」ではなく、“どう思い浮かべるか”を大切にすることで、コートに立つ子どもたちのサーブが変わり始めます。
引用元
Modulating the tennis racket grip during motor imagery influences serve accuracy and performance: A pilot study

