「力をつける前に、動ける身体を育てよう。」
子どもがテニスを続けていく中で、「もっとパワーをつけた方がいいのでは?」と感じる場面は多いと思います。
しかし、中国のスポーツ科学・運動生理・スポーツ医学の研究者チームたちがまとめた体系的レビュー(23本のランダム化比較試験)を読むと、ジュニア期に最優先すべきは“パワー”ではなく、“神経と筋肉の連携”づくりであることが見えてきました。
神経‐筋トレーニング(NMT)は「うまく動ける身体」をつくる
NMTとは「神経と筋肉がタイミングよく働くように整え、バランス・敏捷性・スプリント・体幹の安定を高めるトレーニング」のことです。
具体的には、
- プライオメトリクス(ジャンプなど素早い動き)
- レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)
- コアトレーニング(体幹の安定)
などが含まれますが、共通する目的は「思った通りに身体が反応し、正しいフォームで動けるようにする」ことです。
これはテニスにおいて、技術の土台にもなる能力です。
ジュニア期は“パワーより動きの質”が伸びやすい
NMTによって以下の能力が有意に向上したと報告されています。
・敏捷性(アジリティ)
・スプリント
・体幹の安定
・筋力
・パワー
・サーブ速度
しかし、年齢別に見ると重要な特徴があります。
18歳以上はサーブ速度とパワーの伸びが大きい
平均年齢が高いほど、サーブ速度・パワーの向上が大きいことが示されました。つまり、身体が成熟してからの方がパワー系の伸びが大きいということです。
これは、
- 骨格の成長
- ホルモンの変化
- 筋力の発達
が関係すると考えられます。
ジュニアは敏捷性・スプリントの伸びが際立つ
一方で、敏捷性・スプリントはどの年齢でもしっかり伸びることが示されています。
これは、“ジュニア期は動きの質が育ちやすい時期”であることの裏付けと言えます。
なぜジュニアは「パワーを追いすぎない方がいい」のか
① パワーは“土台ができてから”の方が伸びる
論文の結果からは、「動きの土台ができる→その上にパワーが乗る」という順序が自然であることが読み取れます。
ジュニア期に土台が弱いままパワーだけを求めると、
- フォームが崩れる
- 怪我のリスクが上がる
という可能性があります。
② “動きの土台”こそ、NMTが最も伸ばす要素
コアトレーニングは敏捷性に最も効果的、プライオメトリクスがスプリントやサーブ速度に効果的という分析結果もあります。
つまり、ジュニアが伸びやすい部分とNMTが強い部分が重なっているのです。
週2回で十分。やり過ぎない方が伸びることも
研究では、
・週2回のNMTがスプリント改善に最も効果的
・週3回にしても効果は増えず、むしろ伸びないこともある
と報告されています。
また、
・12週間以上続けても敏捷性やスプリントは伸びが鈍る
という結果もあります。
これは、「質の高い刺激」を「適切な頻度」で入れる方が成果につながることを示しています。
ジュニアにNMTを取り入れる意味──“未来の伸びしろ”を守ること
論文の結果から見える、ジュニア期にNMTを導入する意義は次の3つです。
① ケガをしにくく、長く伸びる体をつくる
NMTは「姿勢の安定」「関節のコントロール」を高めます。
これらはテニスで最も重要なケガ予防要素であり、強度の高い練習に耐える土台にもなります。
② 技術習得がスムーズになる
敏捷性・バランス・体幹の安定は、フォームの再現性に直結します。
技術が安定していないジュニアほど、この恩恵は大きいと考えられます。
③ “パワーが伸びる時期”に大きく飛躍できる
18歳以降のパワー向上が顕著という論文結果から、
ジュニア期に土台づくり → 成長期に一気に伸びるという流れが最も合理的です。
未来へつながる“動きの土台”を育てよう
ジュニア期の子どもたちにとって、神経‐筋トレーニング(NMT)は「今すぐ勝つための武器」ではなく「将来伸びるための身体づくり」です。
まとめ
・パワーは焦らない
・動きの質を大切にする
・週2回程度で十分に効果が出る
・体幹・敏捷性・スプリントは特に伸びる
こうした知見は、ジュニア選手が“ケガなく成長し、長くテニスを楽しめる身体”をつくるための大きなヒントになります。

