「海外遠征は、勢いではなく“設計”で続けるもの。」
国内大会で結果が出始めると、次に見えてくるのが「海外遠征」という選択肢です。
一方で、多くの保護者が最初に直面するのが、「いったい、いくらかかるのか」という現実。
このコラムでは、ジュニアテニスにおける海外遠征とお金の関係を、できるだけ整理してお伝えします。
海外遠征費は「大会費」だけでは終わらない
海外遠征というと、まず思い浮かぶのは大会のエントリーフィーかもしれません。
しかし当然、遠征費用はそれだけでは完結しません。
主に必要になるのは、
- 航空券などの渡航費
- 宿泊費・食費
- 現地での移動費(レンタカーや公共交通)
- コーチ帯同費
特に、現地での生活費や移動費は見落とされがちで、「気づいたら想定を超えていた」という声も少なくありません。
海外遠征では、“見えやすい費用”と“後から効いてくる費用”を分けて考えることが大切です。
行き先と日数で、遠征費用は大きく変わる
遠征費用は、行き先と期間によって大きく変わります。
例えば、アジア圏の大会は移動時間が短く、渡航費や滞在費も比較的抑えやすい傾向があります。
一方、ヨーロッパやオセアニアは大会数が多く、複数週にわたって転戦しやすい反面、宿泊費や移動費は高くなりがちです。
アメリカはジュニアテニスの本場として人気がありますが、車移動前提の生活や滞在費の高さから、初海外としてはハードルが高いでしょう。
「どこへ、どのくらい行くのか」を具体的にすることが、資金設計の第一歩です。
コーチ帯同をどう捉えるか──「理想」と「現実」の整理
海外遠征を考えるうえで、多くの家庭が悩むのがコーチ帯同です。
理想を言えば、メインコーチに一対一で帯同してもらう形が、最も学びの密度が高いと言えます。
試合を通して課題を見つけ、その場で修正し、次の試合に生かす。
このサイクルを現地で回せることは、海外遠征ならではの大きな価値です。
ただし、費用面の負担は小さくありません。
一般的に、コーチ1人あたりの帯同費用は1日2〜3万円前後が目安とされ、これに渡航費や滞在費が加わることもあります。
そのため、
- メインコーチは国内に残り、別のツアーコーチに帯同してもらう
- 現地ではコーチングを受けないと割り切る
といった選択をする家庭もあります。
この場合に重要なのが、遠征前のコミュニケーションです。
帯同コーチとメインコーチがどのように連携するのか。
あるいは、今回は「経験重視の遠征」と位置づけるのか。
目的を整理しておくことで、遠征の価値は大きく変わります。
「一人で行かない」海外挑戦──ツアー遠征という選択肢
近年は、個人遠征だけでなく、ツアー形式で海外大会に参加するという選択肢も増えています。
ツアー遠征では、大会エントリーや宿泊、現地移動、コーチ帯同がパッケージ化されているため、初めての海外遠征でも計画が立てやすい点が特徴です。
日本では、Team Macy、ノアインドアステージ、TEAN YONEZAWAなどが、ジュニア向けの海外遠征ツアーを行ってきた実績を持っています。
集団帯同になるため個別対応は限られますが、
- 初海外遠征
- 親が現地に帯同できない
- 海外大会の雰囲気をまず知りたい
といった条件では、安心して経験を積める方法のひとつです。
また、ナショナル選手に選出された場合は、日本テニス協会のナショナルチームが帯同し、遠征費用を協会が負担するケースもあります。
これは限られた選手への制度ですが、育成段階によって環境が変わる一例として知っておく価値はあります。
ツアー遠征の費用構造──人数によって変わる「割り勘」の現実
ツアー遠征は、個人でコーチを帯同するよりも費用を抑えられるイメージを持たれがちです。
確かにその側面はありますが、費用の仕組みを正しく理解しておくことが重要です。
ツアー遠征では、
- コーチの帯同費
- 渡航費
- 現地移動費
- 宿泊費
- 食費
といったコーチにかかる費用全体を、帯同されている選手の人数で割るのが基本的な考え方になります。
つまり、
参加選手が多ければ一人あたりの負担は軽くなり、
参加選手が少なければ、その分一人あたりの負担は重くなる
という仕組みです。
そのため、
- 想定より参加人数が集まらなかった
- 直前でキャンセルが出た
といった場合、当初聞いていた金額より最終的な自己負担額が増えるケースもあります。
これは決して「悪い仕組み」ではありませんが、
事前に説明を受けていないと、“想定していなかった出費”になりやすいポイントです。
ツアー遠征を検討する際は、
- 最少催行人数
- 人数が変動した場合の費用調整の有無
- 金額が確定するタイミング
こうした点を事前に確認しておくことで、後からの負担感を減らすことができます。
海外遠征は「2週で1セット」という考え方
海外遠征を計画する際、日本国内の感覚のままで考えてしまうと、認識のズレが生まれやすくなります。
特に重要なのが、海外ジュニア大会では「2週連続で1セット」と考えるのが基本だという点です。
例えば、8月のシンガポール遠征では、
- 8月17日週に開催される「J30 SINGAPORE」
- 8月24日週に開催される 「J60 SINGAPORE」
といった形で、2大会・約2週間の遠征を1単位として考えます。
(※J30・J60はITF(国際テニス連盟)が主催するジュニア大会で、獲得できるポイント数を表しています)
この「2週1セット」という考え方は、
- 渡航費を1回でまとめられる
- 時差や環境への適応を活かせる
- 複数試合の経験を積みやすい
といったメリットがある一方で、費用も時間も1週分では収まらないという現実を伴います。
2週間でいくらかかる?アジア遠征の現実的な予算感
ここでは一例として、アジア圏で2週間(2大会)遠征する場合のモデル予算を、実際の経験値に基づいて整理します。
渡航費(日本〜アジア往復)
- 航空券:8〜15万円前後
※時期(夏休み・年末年始)や購入タイミングによって変動
滞在費(約14泊)
- ホテル・コンドミニアム:8〜20万円前後
※ツアー遠征では複数人でのシェアが多く、比較的抑えやすい
※立地や部屋タイプで差が出やすい
食費
- 4〜6万円前後
※自炊併用か外食中心かで変動
※成長期の選手は想定より増えることも
現地移動費
- 1〜3万円前後
※公共交通中心か、車移動かで差が出る
大会関連費用
- エントリーフィー(2大会分):約2万円前後
- 練習コート代:不要
※大会会場での公式練習・ウォームアップが基本
※別途コートを借りるケースは限定的
コーチ帯同費(ツアー or 個別帯同)
- ツアー遠征の場合:8万〜14万円前後
※コーチの帯同費・渡航費・宿泊費などを
参加選手人数で割った金額 - 個別帯同の場合:
帯同費 1日2万〜3万円 × 約14日=28〜42万円前後
+渡航費・宿泊費が別途かかります
■ 合計イメージ(選手1人あたり)
■ツアー遠征(コーチ帯同あり)
35万〜50万円前後
■メインコーチ個別帯同の場合
50万〜80万円超になることも珍しくない
※あくまで目安であり、為替、航空券価格、参加人数、遠征内容によって大きく変動します。
同じツアー遠征でも、35万円にも70万円にもなる理由
同じ「アジア2週間の海外遠征(ツアー遠征)」でも、
- 航空券をいつ手配するか
- 宿泊をどこまでシェアできるか
- ツアー参加人数が何人か
- コーチ帯同人数が何人か
こうした条件によって、35万円にも、70万円にもなるのが現実です。
大切なのは、「高い・安い」ではなく、
なぜその金額になるのかを理解したうえで選ぶこと。
それができていれば、海外遠征は“家計を削るイベント”ではなく、
計画的に積み上げていける育成の一部になります。
ツアー遠征の注意点①|本当に試合に出場できるのか
ツアー遠征で注意すべき点は、実際に試合へ出場できるかどうかです。
過去には、ツアーに参加したものの、
- 本戦にも予選にも出場できず
- 現地で練習だけして帰国した
というケースもありました。
海外遠征を「経験」と捉えるなら意味のある場合もありますが、
その前提が事前に説明されていたかどうかは別問題です。
遠征前には、
- 本戦・予選・オルタネイトのどこに位置しているか
- 出場できない場合の想定
を必ず確認しておく必要があります。
ツアー遠征の注意点②|早く負けても「すぐには帰れない」
ツアー遠征では、移動や宿泊、帰国日程をチーム単位で行動するのが基本です。
そのため、自分の試合が早いラウンドで終わった場合でも、勝ち残っている選手の試合がすべて終わるまで、現地で待つケースが多くあります。
結果として、試合のない日が数日続き、
- 観戦が中心になる
- 軽めの練習や調整のみになる
といった時間の使い方になることもあります。
こうした時間を、海外大会の雰囲気を感じたり、他の選手の試合を間近で見る経験と捉えられるか、
それとも「試合のために来たのに待つ時間が長い」と感じるかは、事前に知っているかどうかで受け止め方が大きく変わります。
ツアー遠征を検討する際は、
- 早期敗退した場合の過ごし方
- 練習機会がどの程度確保されるのか
- 帰国日程を個別に変更できるのか
こうした点も含めて確認しておくことで、遠征後の納得感を高めることができます。
海外遠征前に確認しておきたいチェックリスト
最後に、遠征前に整理しておきたいポイントを、チェックリストとしてまとめます。
□ 今回の遠征の目的は明確か
- 試合結果を求めるのか
- 海外大会の経験を積むことが目的なのか
- ポイント獲得を狙っているのか
目的によって、遠征の形や費用のかけ方は変わります。
□ 本当に出場できる大会か
- 本戦・予選・オルタネイトのどこに位置しているか
- 出場できない場合の想定は説明されているか
- 「試合に出られない可能性」も理解した上で参加しているか
□ コーチ帯同の形と役割は整理できているか
- メインコーチか、別のコーチか
- 現地で何を求めるのか
- 帰国後の指導とどうつなげるのか
□ ツアー遠征の費用構造を理解しているか
- コーチ費用は人数割りであること
- 参加人数によって金額が変動する可能性
- 最少催行人数と費用確定のタイミング
□ 想定外の出費も含めて考えられているか
- 追加宿泊や移動費
- 練習コート代や食費
- 為替や航空券価格の変動
海外遠征は、「行くか・行かないか」よりも、「どう設計して行くか」が、その後の育成を大きく左右します。
すべてを完璧に揃える必要はありません。
ただ、知ったうえで選ぶこと。
それが、選手と家庭の両方を守る、いちばん確かな資金戦略です。

