「早く大人と同じイエローボールで打てるようになってほしい」――。その焦りが、大切なお子さんの肘を危険にさらし、上達を妨げているかもしれません。
最新のバイエシアン解析を用いた研究により、グリーンボールは身体的負担を増やすことなく、戦術的・技術的なメリットを最大化できることが証明されました。
今回は、科学的データから導き出された「正しいスケーリング(用具の最適化)」の重要性を解き明かします。
グリーンボールでも身体的負荷は「変わらない」という事実
多くの指導者は、「グリーンボールを使うとラリーが長く続くため、子供の体力的な負担(外部負荷)が増えるのではないか」と懸念してきました。しかし、2026年1月に発表された最新研究では、驚くべき結果が出ています。
- 研究内容:19名のジュニア選手(平均 10.17 歳)による72試合を最新デバイスで分析。
- 結果:グリーンボールと標準ボールの間で、アクティブタイム(実際に動いている時間)やワーク・レスト比(活動と休息の割合)に有意な差は見られませんでした。
つまり、グリーンボールを使用しても「動きすぎて疲れすぎる」という心配はなく、むしろ安全に技術習得へ集中できる環境を提供できるのです。
真の主役は「生物学的成熟度(PHV)」
この記事で最も強調したいのは、子供たちの運動量に最も影響を与えていたのはボールの種類ではなく、「PHV(身長最大発育速度年齢)」への近さであったという点です。
- 研究の発見:PHVに近い、つまり「身体的に成熟している子」ほど、試合中のアクティブタイムが短くなる傾向がありました。
- 理由:体ができている選手は、一歩の歩幅が大きくショットに威力があるため、より効率的にポイントを終わらせるこができます。逆に未発達な子は、一生懸命に動き回ることで体格差をカバーしているのです。
科学が警告する「肘への負担」――スケーリングが防具になる
ジュニア選手の肘を守るためには、物理的な負荷の差を理解する必要があります。標準のイエローボールは、グリーンボールと比較して空気圧が約 25% 高く設計されています。
この「硬さ」の差は、インパクト時にラケットから腕へと伝わる 「ピークフォース(最大衝撃力)」 に直結します。特に身体が未発達な選手が硬いイエローボールを打ち返す際、その衝撃を筋力で吸収しきれず、肘の外側上顆付近(テニス肘の主要因)へダイレクトに振動が蓄積されます。
また、ボールの重さと弾みに負けまいとして、体幹ではなく腕の力だけで強引に振り抜く「代償動作」が発生しやすくなります。これに対し、低圧縮のグリーンボールを使用することは、物理的な衝撃を和らげるだけでなく、「正しい運動連鎖(全身を使って打つフォーム)」 を維持しやすくする効果があります。
ジュニア育成への応用:明日から使えるアドバイス
この科学的データをもとに、当サイトが提唱する「成長に合わせた優先順位」を再確認しましょう。
- 「暦の年齢」ではなく「体の成長」を見る
同じ10歳でも成熟度は一人ひとり異なります。PHVに達していない子が無理にイエローボールを使うことは、怪我のリスクを高めるだけでなく、効率の悪いフォームを固めてしまう原因になります。 - 第1段階:スキルの習得に専念する
グリーンボールは身体的負荷を増やさずに、戦術的なラリーを可能にします。まずは「体の成長 + 適切な用具でのスキル習得」を最優先してください。 - 多様な運動経験を(早期専門化の防止)
PHV以前にテニスだけに特化すると、特定の部位(肘や肩)への過負荷を招きます。多様なスポーツで身体を使い分けることが、将来のパフォーマンス向上と選手生命の維持に繋がります。
まとめ:科学が教える「急がば回れ」
グリーンボールを選ぶことは、単にラリーを長くするためだけではありません。それは、大切なお子さんの肘や肩を、過剰な物理的衝撃から守るための 「科学的な防具」 を選んでいるということなのです。
子供の成長のタイムラインに寄り添うことが、将来のトッププレーヤーを育てる最短ルートになります。
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参考文献・出典
- Rodriguez-Campos, M., et al. (2026). “Effects of ball type and maturity status on U10 tennis players competition load.” Frontiers in Psychology, 17:1719947.
- Busca, B., et al. (2016). “Effect of ball compression on physical and technical performance in young tennis players.” Journal of Sports Science & Medicine.
- Knudson, D. (2006). “Biomechanical factors in tennis conditioning.” Clinics in Sports Medicine.

