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「期待」が試合前の子どもを固くする|カギは“有能感”——保護者ができる支え方

「期待」が試合前の子どもを固くする|カギは“有能感”——保護者ができる支え方
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 一言メモ
「勝ってほしい」その気持ちは、親なら当たり前。だからこそ、伝え方ひとつで子どもの試合前の心は軽くも重くもなります。この記事は、応援を空回りさせないための話です。

試合前になると、うちの子はいつも固くなってしまう——。
その理由の一端が、実は「親の期待」にあるかもしれません。

中学生テニス選手492名を対象にした最新研究が示したのは、保護者の過度な期待が試合前の不安を高めるという事実。しかもその引き金になっていたのは、心の3つの欲求のうち、たった1つ「有能感」でした。

家庭で使えるポイントに翻訳してお届けします。

目次

まず知っておきたい:どんな研究?

今回参照したのは、2026年5月に学術誌『Frontiers in Psychology』で公開された研究です。中国・広東省と広西省の中学テニス部員492名(平均年齢13.2歳)を対象に、アンケート調査を行いました。無作為に近い方法で対象を選び、回答が得られた割合は98.4%と非常に高く、そのぶん実態に近いデータといえます。

調べたのは大きく3つ。

  1. 保護者からどれくらい期待を感じているか
  2. 心の基本的な欲求(あとで説明します)がどれくらい満たされているか
  3. 試合前にどれくらい不安を感じるか

この3つの関係を統計的にひもといた研究です。

過度な期待は、試合前の不安を“高める”

結果はシンプルでした。保護者の期待が強いと感じている子ほど、試合前の競技不安が高い——この関係が、統計的にはっきり確認されました。がんばってほしいという思いが、子どもにとっては「勝たなきゃ」「応えなきゃ」というプレッシャーとして届き、コートに立つ前の心を重くしていた、というわけです。

ここで大事なのは、期待を「かけること」そのものが悪だ、という話ではない点です。

研究が明らかにしたのは、期待の強さと不安の高さがつながっている、という関係。
次の章で見るように、その“つながり方”にこそ、保護者にできる工夫のヒントが隠れています。

カギは「有能感」——自律性でも関係性でもなかった

この研究のいちばん面白いところがここです。人の心には、満たされると前向きに動ける3つの基本的な欲求があるとされています。

◎心の3つの基本的な欲求
有能感…「自分はできる」「うまくなっている」という手応え
自律性…「自分で選んでやっている」という感覚
関係性…「まわりとつながっている」「認められている」という安心感

研究では、保護者の過度な期待がこの3つの充足を全体として押し下げていました。そのうち、期待を試合前の不安へつなぐ“通り道”になっていたのは「有能感」だけ。自律性と関係性は、統計的にはその通り道になっていませんでした。だから手を打つなら、まず有能感を守ることです。

誤解しやすいのは“向き”です。「有能感があるから不安になる」のではなく、その逆。有能感はもともと不安を抑える“心の支え”で、親の強い期待がそれをしぼませ、下がった有能感が不安を呼び込むのです。

不安が生まれる“向き”
親の過度な期待が上がる ➡ 「自分はできる」という有能感が下がる ➡ 試合前の不安が上がる
※ 有能感が“下がる”ことで不安が上がる、という流れです。

つまり親のプレッシャーは、「期待が直接ストレスになる」道「有能感を削って不安に変える」道という二重の経路で、子どもの不安を押し上げていた——研究チームはそう指摘しています。

だから「結果志向」から「プロセス志向」へ

ここが保護者にとっていちばん実用的なポイントです。

有能感は「勝ったかどうか」だけで決まるものではありません。「昨日よりうまくなった」「できることが増えた」という“伸びの実感”から育ちます。ところが、結果だけを強く求める言葉は、勝てなかった日にこの手応えを一気にしぼませてしまいます。

研究チーム自身も、「結果を求める要求」から「プロセスを支えるサポート」へ切り替えること、そして保護者向けの学びの機会を増やすことを提言しています。

むずかしく考える必要はありません。かける言葉の“焦点”を、結果から過程へずらすだけです。

「今日は絶対勝ってね」→「今日はどんなプレーをしたい?」
「なんで負けたの?」→「今日できるようになったことは?」
「ミスしないように」→「思い切って打っておいで」

※ 補足(本研究の提言をもとにした具体例):上の言い換え例そのものは研究で検証されたフレーズではなく、「結果志向からプロセス志向へ」という著者らの提言を、家庭で使える形に翻訳したものです。お子さんの性格や年齢に合わせて言葉は選んでください。

個人競技だからこそ、親の存在は大きい

テニスは、チームスポーツと違ってコートの上に味方がいません。ミスをしてもカバーしてくれる仲間はおらず、結果はすべて自分に返ってきます。応援席との距離も近く、保護者の表情や声が本人にダイレクトに届きやすい——

こうした個人競技ならではの環境は、親の期待がプレッシャーとして伝わりやすい土壌になりうる、と考えられます。

家庭でできること 3つ

①試合前は「結果の言葉」をひとつ減らす

コートに送り出す直前の一言を、勝敗ではなく過程や楽しみに向けるだけで、子どもが受け取るプレッシャーは変わります。「勝ってね」を「楽しんできてね」「練習したこと出しておいで」に。

送り出しの言葉は、その日いちばん記憶に残りやすい言葉です。

②試合後は「勝敗」より先に「伸び」を聞く

帰り道の第一声を、「今日できるようになったことは?」にしてみてください。有能感は“伸びの実感”から育ちます。勝った負けたの前に、成長した一点を親子で見つける習慣が、次の試合に向かう心の土台になります。

負けた日ほど、この一言が効いてきます。

③期待は「心の中」に置き、要求として渡しすぎない

期待を持つこと自体は自然なこと。問題は、それが「〜しなければ」という要求の形で子どもに重くのしかかるときです。期待は親の胸の内に置いておき、子どもには「見ているよ」「応援しているよ」という支えの形で届ける——。

同じ思いでも、渡し方で子どもの感じ方は大きく変わります。

指導者・コーチ向けメモ

「マスタリー(習熟)志向」の場づくりを

研究チームは、選手の有能感・自己効力感・心理的な準備を支える“習熟志向の指導環境”を推奨しています。

他者との勝敗比較よりも、本人の上達(前回の自分との比較)を評価軸に据えることが、有能感を守るいちばんの近道です。

「有能感」を言葉で可視化する

子どもは自分の伸びに気づきにくいもの。

「先週できなかったこのショット、今日は3本入ったね」と具体的な成長を名指しでフィードバックすると、勝敗に左右されない手応えが積み上がります。

有能感は不安への“橋渡し役”だった要因だからこそ、ここを厚くする価値があります。

保護者を“同じチーム”に巻き込む

研究は保護者向けの教育・啓発の必要性にも触れています。

「結果を求める言葉」がかえって不安を高めうること、送り出し・出迎えの一言の力を、練習見学や保護者会などで共有しておくと、家庭とコートの声かけがそろいます。

試合前の“親の距離感”に気を配る

個人競技のテニスは応援席が近く、保護者の反応が本人に届きやすい環境です。

試合前は保護者にも「結果より過程の声かけを」と一声かけておくと、選手が余計な緊張を背負わずにすみます。

まとめ

期待は、親の愛情のかたちそのものです。
それを消す必要はありません。

大切なのは、その思いを「勝て」という要求ではなく、「見ているよ」という支えに翻訳して渡すこと。そして、子どもの“できる”という手応えを守ることが、試合前の心を軽くし、テニスを長く楽しく続けるための土台になります。

参考文献

Zhang Z, Chen Z, Peng L. The mediating role of basic psychological needs satisfaction in the link between parental expectations and competitive state anxiety among adolescent tennis players.
Frontiers in Psychology, 2026年5月7日公開.(中学生テニス選手492名を対象とした質問紙調査。構造方程式モデリング+媒介分析〈PROCESS Model 4・ブートストラップ法〉。主要結果:保護者の期待→競技状態不安 β=0.153/有能感を介した間接効果 β=0.014, 95%CI[0.001, 0.034]、自律性・関係性の媒介は非有意)
https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2026.1757414/full

本記事は上記研究をわかりやすく紹介するもので、医学的・心理学的な診断や治療を目的としたものではありません。本文中で「推測」「補足」と明記した箇所は、研究で直接検証された内容ではなく、競技特性や著者らの提言をもとにした解釈・具体例です。お子さんの心身の不調が続く場合は専門家にご相談ください。

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