強くする前に、守る。その順番を周囲が理解することが、確かな成長につながります。
女子ジュニアのパフォーマンスは、「どれだけ練習したか」だけでは決まりません。
第1部では身体の成長とホルモン、第2部ではエネルギー不足や貧血といったリスクを見てきました。
第3部となる今回は、それらを踏まえたうえで「どうすれば守りながら強くなれるのか」。トレーニング・栄養・関わり方という視点から、現場で実践できるヒントをお伝えします。
トレーニングは「量」ではなく「タイミング」で考える
女子ジュニアにおいて重要なのは、「どれだけやるか」ではなく「いつ、どの状態でやるか」です。
月経周期や体調の変化によって、パフォーマンスが出やすい時期とそうでない時期があります。
例えば、
・比較的動きやすい時期 → 技術練習や強度の高い練習
・疲労が出やすい時期 → 調整や回復を重視
といったように、同じ練習でも“合わせ方”が変わります。
UK Sportなどでも、女子アスリートのコンディション管理において周期の理解が重要であると示されています。
食事は「量」よりも「不足をつくらない」こと
第2部で見たように、エネルギー不足はパフォーマンス低下の大きな原因になります。
ここで大切なのは、「特別な食事」ではなく「不足を防ぐこと」です。
特に意識したいのは、
・練習後すぐの補食(おにぎり・バナナなど)
・鉄を含む食品(赤身肉、魚、大豆製品など)
・1日3食+必要に応じた間食
「しっかり食べているつもり」でも、消費量に対して足りていないケースは少なくありません。
American College of Sports Medicineでも、エネルギー不足の予防が女子アスリートの健康維持に重要であると示されています。
「休むこと」はトレーニングの一部
日本のジュニアスポーツでは、「休む=サボり」と捉えられてしまうことがあります。
しかし実際には、回復がなければパフォーマンスは向上しません。
特に女子ジュニアは、
・成長による疲労
・ホルモン変化
・エネルギー不足の影響
が重なりやすいため、「休む判断」がより重要になります。
調子が落ちているときに無理を重ねるよりも、一度立ち止まることが結果的に成長につながるケースも多くあります。
親とコーチの“関わり方”が未来を変える
女子ジュニアのコンディションは、本人だけで管理するのは難しいものです。
だからこそ、周囲の関わり方が大きな影響を持ちます。
例えば、
・「最近どう?」ではなく「疲れやすくない?」と聞く
・結果ではなく体調や変化に目を向ける
・話しやすい雰囲気をつくる
こうした小さな関わりが、大きな問題の早期発見につながります。
特に月経や体調の話はデリケートだからこそ、「話してもいい」と思える環境づくりが大切になってきます。
専門家に頼るという選択肢を持つ
女子ジュニアのコンディション管理は、ときに見た目だけでは判断が難しいこともあります。
・疲れやすさが続く
・パフォーマンスが落ちている
・月経の変化がある
こうしたサインが見られる場合、スポーツに理解のある医療機関で一度チェックを受けることも一つの選択肢です。
特に、スポーツ内科((運動する人の体調管理を専門とする診療分野))では、血液検査(鉄の状態など)やコンディションの評価を通して、見えにくい問題を客観的に把握することができます。
「問題があるから行く」のではなく、「状態を知るために確認する」――そんな感覚で活用することが大切です。
自分の身体を“見える化”する習慣を持つ
女子ジュニアが自分のコンディションを守るために、もう一つ大切なのが「記録すること」です。
体調の変化は、日々の中では気づきにくいものです。しかし、簡単でもいいので記録を残していくことで、小さな変化に気づきやすくなります。
例えば、
・その日の体調(疲労感・気分)
・練習の強度や内容
・食事のタイミング
・月経周期
といった情報を、ノートやスマートフォンにメモしておくだけでも十分です。
大切なのは、「正確に完璧にやること」ではなく、**“自分の傾向を知ること”**です。
「この時期は疲れやすい」
「この練習の後は食事が足りていないかもしれない」
こうした気づきが、コンディションを崩す前の予防につながります。
また、こうした記録は、コーチや保護者、医療機関と共有することで、より適切なサポートにもつながります。
コンディションが万全でない日の考え方
女子ジュニアの競技生活において、常にベストコンディションで試合に臨めるとは限りません。
月経周期や体調の変化と試合日程が重なり、どうしても「いつも通りに動けない」と感じる日もあります。
そうしたときに大切なのは、「いつも通りにやろう」とすることではありません。
例えば、
・プレーのスピードを無理に上げすぎない
・ミスを減らす意識を強く持つ
・ポイントの組み立てをシンプルにする
といったように、「今の状態でできる最善」を選ぶことが重要です。
また、「今日はコンディションが万全ではない」と自分で理解しているだけでも、無理なプレーを減らし、結果としてパフォーマンスを安定させることにつながります。
100%の自分ではない日に、どう戦うか。それも競技力の一つです。
月経をコントロールするという選択についての注意点
近年、女性アスリートの中では、月経周期を競技日程に合わせて調整するという考え方が話題になることもあります。
実際に、トップレベルの競技現場では、医師の管理のもとで月経をコントロールするケースもあるとされています。
しかし、このような方法はあくまで専門的な医療管理のもとで行われるべきものです。
特に成長段階にあるジュニア選手においては、ホルモンバランスや身体の発達に与える影響も大きいため、安易に取り入れるべきではありません。
「試合に合わせるためにずらす」という発想の前に、まずは自分の身体の状態を理解し、自然なリズムを大切にすることが基本になります。
必要がある場合でも、必ず医師や専門家と相談しながら判断することが重要です。
自己判断で行うものではない、という認識がとても大切です。
“できていない”ではなく“合っていない”と考える
女子ジュニアの不調やパフォーマンス低下を、「努力不足」と捉えてしまうと、本来必要な対応が見えなくなります。
・動けない → 体力不足
ではなく
・動けない → エネルギー不足かもしれない
このように視点を変えることが重要です。
身体に合っていない状態で努力を重ねても、結果にはつながりにくく、むしろリスクが高まることもあります。
守る力が、強さにつながる
女子ジュニアの成長は、「追い込むこと」だけでは支えられません。
・身体を理解すること
・エネルギーを満たすこと
・適切に休むこと
この3つがそろって初めて、パフォーマンスは安定し、伸びていきます。
短期的な結果ではなく、長期的に強くなるために。
守ることは、決して遠回りではありません。
子どもの変化に気づくことができるのは、日々そばにいる大人の役割でもあります。
まずは今日から、“体調どう?”と一言聞くことから始めてみてください。
引用元
UK Sport/Female Athlete Health Guidance
American College of Sports Medicine(ACSM)/Female Athlete Triad

