MENU

「早く選ばれた子」がプロになるとは限らない|スポーツ医学誌が示す才能育成の最新エビデンス

「早く選ばれた子」がプロになるとは限らない|スポーツ医学誌が示す才能育成の最新エビデンス
  • URLをコピーしました!
📝 一言メモ
スポーツ医学の国際誌Sports Medicineに2026年9月に掲載された論文「国の競技システムにおける若手アスリートの育成と才能促進に関するエビデンス」を紹介します。
結論は「早く選ぶほど有利、という前提は研究で裏付けられていない」。保護者とコーチの判断材料になる内容です。

「うちの子は選抜に入れなかった。もうプロは無理なのでしょうか」

「早くから強化チームに入れないと、差がついてしまうのでは」

ジュニアテニスの保護者やコーチから、こうした不安を聞くことが少なくありません。12歳以下、14歳以下と年齢別のカテゴリーがあり、ランキングも早くからつくテニスでは、「早く選ばれること」がそのまま将来の保証のように見えてしまいます。

この問いに、世界のトップ研究者が正面から答えた論文が2026年9月に出ました。舞台はスウェーデンですが、書かれているのは「子どもをいつ、どう選ぶべきか」という、どの国のどの競技にも共通する問題です。

この記事では、その論文の中身を、保護者とコーチが明日から使える形に整理してお届けします。

この記事の結論を先に

ジュニア期のトップ選手と、大人になってからのトップ選手は「別の集団」である。1万3,000人以上のアスリートを分析した研究で、若い時期の国際的な好成績が大人になってからの成功を予測する力は限られている、とわかっています。

12歳前後から「早生まれ」「体が早く大きくなった子」が選ばれやすくなる。生まれ月と成熟の早さという、才能とは関係のない要因で選抜がゆがみます。

研究者の提言は「子ども期(12歳以下)の選抜を避け、間口を広く保ち、後から入れる道を残す」。これは「楽しくやればいい」という話ではなく、トップ選手の育成とも両立する方法として示されています。

目次

どんな論文なのか

紹介するのは、スポーツ科学分野を代表する国際誌のひとつ、Sports Medicineに2026年9月13日にオンライン掲載された論文です。

筆頭著者はスウェーデン・カロリンスカ研究所のトミー・ルンドベリ氏。共著者には、ジュニア育成研究の世界的な第一人者であるカナダのジャン・コテ氏やジョセフ・ベイカー氏、さらにスウェーデンアイスホッケー協会の関係者も名を連ねています。

研究者だけでなく、現場で育成に携わる人が共著に入っている点が特徴です。

きっかけはスウェーデンでの論争でした。かつて強かった代表チームの成績が落ち込み、「子どものうちから選抜して鍛えるべきだ」という声と、「誰もが参加できる仕組みを守るべきだ」という声がぶつかり、政府がスポーツ連盟に対して、早期選抜をなくす取り組みとその結果を報告するよう求める事態になったのです。

論文はこの論争を出発点に、「早期の才能促進プログラム(論文ではTPPと呼びます)」が本当に効果があるのかを、これまでの研究を総合して検証しています。

なお論文では、12歳以下を「子ども」、13〜19歳を「ユース・ジュニア」と定義し、「早期」とは13歳未満からの導入を指しています。この線引きは、あとで重要になります。

「早く選ばれた子」は本当にトップになっているのか

早期選抜の根底には、わかりやすい考え方があります。

「早く始めて、早くリードした子は、そのリードを保ったままトップに行く」。論文はこれを「一歩先(step ahead)」モデルと呼んでいます。

もしこれが正しければ、トップ選手のほとんどは早期の選抜プログラム出身のはずです。ところが、データはそれを裏付けていません。トップ選手は、早期専門化と幅広い経験の両方を含む、さまざまな道から生まれています。

ジュニアのトップと大人のトップは「別の集団」

論文が引用する、オリンピック競技を対象に1万3,000人以上のアスリートを分析したメタ分析(2006〜2021年)では、若い時期の国際レベルの成績が大人になってからの成功を予測する力は限られている、と示されています。

論文の表現を借りれば、「ほとんどのトップジュニアはトップシニアにならず、さらに重要なことに、ほとんどのトップシニアはトップジュニアではなかった」。

この傾向は、競技や性別、国を問わず一貫して確認されているとのことです。

さらに、大人になって世界トップに到達した選手は、ジュニア期に成功した選手と比べて、子どものころに複数のスポーツを経験し、専門化が遅く、早い時期の競技専門のトレーニング量が少なく、初期の伸びが比較的ゆるやかだった、と報告されています。

ジュニア期に成功した選手の集団とは、歩んできた道が違うのです。

なお論文は、この種の研究には「競技を続けた人しか調べられない」という偏り(生存者バイアス)の可能性があることも正直に書き添えています。それでも、国内トップと世界トップで競技歴の違いが見られることから、単なる統計上の見かけではない、と判断しています。

ただし「若いころに代表だった人が多い」のも事実

論文は、都合のよいデータだけを並べてはいません。

欧州サッカーの9,500人以上を分析した研究では、2002〜2022年にイングランド、フランス、イタリア、ドイツ、スペインの大人の代表になった選手の約75%が、ユース年代でも一度は代表に選ばれていました。スウェーデン男子サッカーでも、大人の代表の60%がジュニア期に1部クラブへ移っています。

つまり「大人のトップは、若いころもそれなりに目立っていた」ことは多い。しかし「若いころのトップが大人のトップになる」とは限らない。この2つは両立します。

論文の整理では、将来のトップ選手は成長の過程を通じて一定の力を示してはいるものの、若い年代の「最上位」にいるとは限らない、ということになります。

早く入った子ほど、残っていない

早期選抜プログラムの内側のデータも示されています。

現在の早期プログラムは毎年およそ30%が入れ替わり、最初に入った子のうち3〜5年後も残っているのは約10%にすぎません。ドイツのサッカーでは、ユースアカデミーで年25%、ジュニア代表で年40%が入れ替わり、3年間残れる確率は50%未満でした。

そして「一歩先」モデルとは逆に、サッカーアカデミーではトップに到達する確率は入った年齢が高いほど上がり、実際にトップに到達した選手の入団年齢は平均より遅かったのです。

別の研究では、トップ選手の83.6%が非線形の、行きつ戻りつする道をたどっており、ジュニアからシニアへまっすぐ上がった選手は7%未満でした。

「早く選んで、早く育てる」という直線のイメージは、トップ選手が実際にたどった道と合っていない。これが論文の核心です。

12歳前後に起きる”選抜のゆがみ”

早く選ぶことには、もうひとつ根本的な問題があります。選ぶ基準そのものがゆがむことです。

論文は2つの効果を区別しています。

相対年齢効果選抜の区切り年の早い時期に生まれた子が選ばれやすい偏り。同じ学年でも、生まれ月が早いほど体も経験も先行しているため。
相対成熟効果同じ年齢でも体の成熟が早い子が選ばれやすい偏り。思春期に早く入った子は体格・筋力で有利になり、それがそのまま成績に出るため。

男子では、成熟の早さによる偏りはおよそ12歳、つまり思春期の始まりとともに現れ、年齢と競技レベルが上がるほど強まることが報告されています。

問題は、生まれ月も成熟の早さも、大人になってからの実力とは本来関係がないことです。

NHLに行ったのは「遅く育った子」だった

論文が引く、スウェーデンのアイスホッケーの分析は象徴的です。

過去20年間に高校を卒業し、のちにNHL(北米プロリーグ)へ進んだ選手を調べると、その多くは高校1年の時点で平均より成熟が遅い子でした。

一方で、U16の代表選抜では明らかに成熟の早い子が選ばれる傾向がありました。つまり、16歳の時点で選ばれやすい子の特徴と、最終的にNHLに到達した子の特徴が、逆の方向を向いていたのです。

生まれ月についても同じで、NHLへ到達した割合は、区切り年の最後の四半期に生まれた選手の方が、最初の四半期に生まれた選手より高かったのです。

早く選ぶほど、「早く大きくなった子」を「才能のある子」と見間違えるリスクが高くなる。これが論文の警告です。

一度外れると戻れない仕組みが、才能を捨てている

スウェーデンのアイスホッケーでは、ユース代表から一度外れると、その後NHLまで到達するのは非常に難しいことも示されました。

選抜の精度が低いのに、一度外れたら戻れない。この組み合わせが、晩熟の子や見落とされた子を、才能とは無関係に競技から押し出してしまいます。

だから論文は、問題は「選ぶかどうか」ではなく「いつ、どう選ぶか」であり、「外れた子が後から戻れる道(再参入の経路)」を用意することが不可欠だと主張しています。

早期の集中プログラムが子どもから奪うもの

論文は、早期プログラムの負の側面も具体的に整理しています。

練習量の増加、厳しいスケジュール、高い成績期待、「自分=競技者」という強いアイデンティティの形成、交友関係の制限、転校や転居。これらが重なると、ケガ、プレッシャー、試合前の不安、学業の低下、心の健康の悪化につながりうると指摘しています。

特に身長が急に伸びる時期は、一時的にケガをしやすくなります。その時期は子どもによって大きくずれるため、成熟の個人差を考えずに一律の高負荷をかけるプログラムは、ある子にはケガのリスクを高め、別の子には負荷不足になります。

もちろん、早期プログラムには技術向上や質の高いコーチングへのアクセスといった利点もあり、論文もそれを認めています。

ただ、「早期参加がトップ到達に必要だ」という証拠が乏しい以上、子ども(12歳以下)については、特にチーム競技において、リスクが利益を上回る、というのが研究者たちの判断です。

お金の問題が、才能の母集団を狭める

もうひとつ、日本の保護者にも身近な論点があります。費用です。

スウェーデンの2024年の調査では、子どものスポーツ活動に家庭が使う費用は年間平均約9,400クローナ(約930米ドル)で、2003年から2023年の20年間でほぼ倍増しました。早期の専門プログラムでは、この額はさらに大きくなります。

その結果、スウェーデンのサッカーで15歳の地区選抜に選ばれた選手を調べると、高所得世帯の子が過剰に含まれていました。

お金がかかる仕組みは、才能のある子を経済的な理由で選抜の外に置きます。スウェーデンのような人口の少ない国では、これが「才能の母集団」の厚みを長期的に損なう、と論文は警告しています。

研究者が示した8つの提言

論文は最後に、国の協会やクラブに向けた8つの提言をまとめています。原則を示すもので、「こう運営しなさい」という手順書ではない、と但し書きがついています。

1. 参加しやすさを保つ費用などの壁を下げ、できるだけ多くの子どもが組織的なスポーツに参加できるようにする。
2. 子ども期は「選ばない」早期の選抜・才能発掘を避け、興味を引き出し、楽しさと基礎的なスキルの習得に集中する。選抜するときは複数の指標で判断する。
3. 専門プログラムと一般の競技機会を両立させる選抜の時期を遅らせる代わりに、地域のクラブでの練習と試合の質を高め、選抜外の子も良い環境で育てる。
4. 複数スポーツと競技内の多様な経験を促す子ども期の複数スポーツ経験と、主競技の中での多様な動きの経験が、長期的な成果と健康の両方に有利。
5. 行き来できる柔軟な仕組みにするレベル間を移動でき、いろいろな年齢で入れる入口を複数用意し、晩熟の子や遠回りした子を受け入れる。
6. コーチの質を保証する子ども期は対人スキルの高いコーチが安全で楽しい環境をつくり、思春期以降に技術・戦術の専門性を段階的に加える。
7. 内発的な動機と興味が育つ環境をつくる自分で決める感覚、できるという感覚、仲間とのつながりを優先し、長く続く参加とドロップアウトの減少につなげる。
8. エビデンスを意思決定に組み込む協会・クラブが研究知見を自分たちの状況に合わせて運用に落とし込み、効果を検証し続ける。

なお、スウェーデンスポーツ連盟はすでに「13歳未満のエリート志向の活動は推奨しない」という指針を出しており、論文の立場はこれと一致しています。

「楽しい」は甘えではない

提言の7番目にある「内発的な動機」について、もう少し触れておきます。

子どもと若者がスポーツを続ける主な理由として、くり返し挙がるのが「楽しいから」と「自分がやりたいから」です。論文はこれを甘やかしの話としてではなく、長く続けてトップに到達するための土台として扱っています。

心理学の「自己決定理論」では、人のやる気を支える3つの要素が知られています。

  • 自律性:やらされているのではなく、自分の意思で取り組んでいる感覚
  • 有能感:自分はできる、伸びている、という感覚
  • 関係性:チームや練習仲間、コーチから受け入れられ、つながっている感覚

この3つが満たされた環境で育った選手は、内発的な動機が高く、自分で目標を立て、自分の課題を分析し、やり方を修正する「自己調整学習」の力を身につけやすい、とされています。

これは、いずれ指示なしで自分を伸ばしていかなければならないトップ選手に、最も必要な力でもあります。

ただし論文は、「楽しさや動機があれば成功する」とは言っていません。これらは成功を保証するものではなく、練習と試合の効果を高めたり妨げたりする「調整役」だ、という位置づけです。

「良いコーチ」の定義は、年齢で変わる

論文は「質の高いコーチング」をこう定義しています。

子ども期には、まず対人スキル。安全で、居心地がよく、楽しい環境をつくり、基本的な動きのスキルを育て、良い関係を築き、内発的な動機を引き出すこと。

思春期に入ったら、その関係性の土台を保ったまま、技術・戦術の専門知識を段階的に加えていくこと。

つまり「技術を教えられるコーチ」が良いコーチなのは、ある程度育ってからの話です。小学生のうちに最も大事なのは、子どもがそのコーチの元で「また来たい」と思えるかどうか、ということになります。

テニスの保護者・コーチはどう読めばいいか

ここからは、この論文をテニスに引き寄せて読むときの注意点と、実際に使える視点を整理します。

まず、正直に書いておくべきこと

この論文はスウェーデンのサッカーとアイスホッケーの議論を中心に書かれており、著者自身が「個人競技への当てはまりは今後検証が必要」と明記しています。テニスの話として、そのまま断定はできません。

一方で、ジュニアの成績が大人の成績を予測しにくいという知見は、オリンピック競技全体のメタ分析に基づくもので、競技を問わず一貫して確認されています。相対年齢効果や成熟の偏りも、年齢別カテゴリーで競う競技に共通して起きる現象です。

12歳以下、14歳以下と2歳刻みのカテゴリーがあり、早くから専門化しやすいテニスは、むしろこの問題が強く出やすい競技だと考えてよいでしょう。

保護者が持ち帰れる3つの視点

1. 12歳の順位は、将来の順位ではない。
小学生のうちに選抜に入れなかった、ランキングが伸びない。それは「才能がない」の証明ではありません。論文が引く研究では、むしろ早熟な子が目立つ時期であり、晩熟の子が後から追いついた例が多数報告されています。

2. 生まれ月と体格を、評価から引き算して見る。
テニスの年齢別カテゴリーは生まれ年で区切られるため、同じカテゴリーでも誕生日によって1年近い差があります。身長が急に伸びた子に負けたとき、それは今の体格差であって、実力差とは限りません。

3. 「また行きたい」と言っているかを、一番の指標にする。
論文が繰り返し挙げるリスクのひとつが、ドロップアウトです。続けていれば道は残ります。小学生のうちは、順位より「続けたい気持ちが保たれているか」を見てあげてください。

コーチが持ち帰れる3つの視点

1. 選ぶときは、今の勝敗以外の指標を入れる。
論文は、競技成績だけの選抜より、複数の指標を組み合わせた判断の方が予測力が高いと紹介しています(ただし、それでも予測力は高くない、という但し書きつきです)。生まれ月、成熟度、競技歴の長さを補正して見るだけでも、見落としは減ります。

2. 外した子に「戻る道」を示す。
選抜から外れた子が、いつ、どうすればまた挑戦できるのかを明確にしておく。再参入の経路があるかどうかが、才能の取りこぼしを左右します。

3. 小学生の指導は「技術」より「関係」を評価軸にする。
論文の定義では、子ども期の質の高いコーチングとは、安全で楽しい環境と良い関係をつくることです。技術指導の専門性が問われるのは、その土台ができてからです。

「育成か普及か」は、偽の対立

論文の結論部分に、印象的な一文があります。「参加を重視した長期的な育成と、早期プログラムでトップ選手を生み出すことの対立は、偽の二分法(false dichotomy)である」。

多くの子どもが長く続けられる仕組みが、トップ選手が生まれる母集団をつくる。トップ選手の活躍が、また次の子どもたちを呼び込む。この循環を回すことが、強化と普及の両方に効く、というのが論文の主張です。

「早く選ぶか、みんなを大事にするか」で悩む必要はない。みんなを大事にすることが、結果的にトップ選手が育つ土台になる。世界の研究者が既存の研究を総合して導いたこの結論は、日本のジュニアテニスにとっても、立ち止まって考える価値のあるものだと思います。

出典

・Lundberg TR, Lind J, Baker J, Lundkvist E, Lascu A, Johnston K, Côté J, Fransen J, Ivarsson A. Evidence-Based Insights for the Development and Talent Promotion of Young Athletes in a National Sports Context. Sports Medicine. 2026年9月13日オンライン公開. https://doi.org/10.1007/s40279-026-02535-z(オープンアクセス・CC BY 4.0)

本記事は上記論文の内容を、日本のジュニアテニスの保護者・コーチ向けに要約・解説したものです。本文中の数値はすべて同論文および論文が引用する研究に基づいています。論文はサッカー・アイスホッケーを中心とした議論であり、個人競技への適用は著者自身が今後の検証課題としています。テニスへの当てはめに関する記述は、ジュニアテニス.com編集部の解釈を含みます。

「早く選ばれた子」がプロになるとは限らない|スポーツ医学誌が示す才能育成の最新エビデンス

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次