恋愛は敵ではない。大切なのは、夢より大きくしないこと。
「テニスを本気でやるなら恋愛はしない方がいいですか?」
ジュニア選手や保護者から、ときどきこんな相談を受けます。
確かに恋愛によって練習に集中できなくなったり、試合前に気持ちが乱れたりすることはあります。しかし、人を好きになること自体は思春期の自然な成長の一部です。
大切なのは恋愛を禁止することではなく、恋愛との付き合い方を学ぶことだと考えています。
恋愛は「してはいけないこと」ではなく成長の一部
思春期になると、異性や同性を含めた特定の相手に特別な感情を抱くことは珍しいことではありません。
発達心理学の分野では、恋愛関係は単なる遊びではなく、自分自身の価値観やアイデンティティー(自分らしさ)を形成していく大切な経験の一つと考えられています。
アメリカの心理学者ウィンドル・ファーマンらは、思春期の恋愛関係は親子関係や友人関係とは異なる学びの場であり、親密さや信頼関係、感情のコントロールを学ぶ機会になると説明しています。
また、
発達心理学のレビュー研究では、10代の恋愛は青年期における重要な発達課題の一つであり、人間関係の築き方を学ぶ場であることが示されています。
つまり、恋愛そのものを問題視する必要はありません。
テニス選手である前に、一人の成長途中の子どもであることを忘れない視点も大切です。
良い恋愛は競技の力になることもある
恋愛をすると競技力が落ちると思われがちですが、実際の研究を見ると話はもう少し複雑です。
スポーツ心理学の研究では、若いアスリートにとって良好な人間関係はモチベーションや競技継続に大きな影響を与えることが分かっています。
10〜14歳のスポーツ選手を対象にした研究では、友人関係の質が高い選手ほど、
・スポーツを楽しめる
・努力する意欲が高い
・競技への前向きな動機づけが強いという傾向が確認されました。
もちろん恋人と友人は同じではありません。
しかし、「自分を応援してくれる存在」「落ち込んだときに話を聞いてくれる存在」が心理的な支えになるという点では共通しています。
実際に、「好きな人に頑張っている姿を見せたい」という気持ちが努力の原動力になるジュニア選手も少なくありません。
近年のスポーツ参加に関する研究でも、周囲との良好な人間関係やサポートは、競技を続ける意欲や楽しさに大きく関係することが報告されています。
恋愛そのものが選手を強くするわけではありません。しかし、健全な関係が心の安定につながることは十分に考えられます。
問題は恋愛ではなく「依存」
一方で、恋愛にはリスクもあります。
特にジュニア年代は感情の振れ幅が大きく、恋愛が生活の中心になりやすい時期でもあります。
例えば、
- LINEの返信が気になって練習に集中できない
- ケンカをして試合前から落ち込む
- 相手の予定に振り回される
- 別れたことでテニスへの意欲まで失う
こうした状態になると、競技への影響は避けられません。
思春期の恋愛に関する研究では、恋愛関係は自己形成と深く結びついているため、関係がうまくいかなくなった際に強いストレスや落ち込みを経験することも指摘されています。
つまり危険なのは恋愛そのものではなく、「恋愛が日常のすべてになること」です。
テニスもある。
友達もいる。
学校生活もある。
その中の一つとして恋愛が存在する状態が理想的なのかもしれません。
世界を目指す選手にとって、恋愛は足かせになるのか
ここまで読んで、「一般的な子どもなら分かるけれど、世界を目指すような選手なら恋愛は控えた方がいいのでは?」と感じた保護者の方もいるかもしれません。
確かに、世界のトップを目指す選手には特別な覚悟と時間の使い方が求められます。
学校に通いながら、練習をして、トレーニングをして、遠征に出て、勉強もする。トップレベルを目指すジュニア選手の毎日は、すでに十分すぎるほど忙しいものです。
そのため、恋愛によって使える時間やエネルギーが減ることは現実としてあります。
しかし、だからといって恋愛そのものが世界トップへの障害になるわけではありません。
実際に、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マレーなど、多くのトップ選手はパートナーや家族を持ちながら輝かしいキャリアを築いています。
では、何が違うのでしょうか。
おそらく最大の違いは、「恋愛に支配されるか、恋愛をマネジメントできるか」です。
トップコーチたちが本当に心配するのは、恋愛そのものではありません。恋愛によって感情が大きく揺さぶられ、練習や試合への集中力が失われることです。
例えば、
- メッセージの返信が気になって練習に集中できない
- ケンカを引きずって試合に入ってしまう
- 別れたことで目標そのものを見失ってしまう
こうした状態になれば、競技への影響は避けられません。
一方で、
- 応援してくれる
- 話を聞いてくれる
- 精神的な支えになる
という関係であれば、恋愛はむしろプラスに働くこともあります。
スポーツ心理学の研究でも、アスリートにとって良好な人間関係や社会的サポートは、モチベーションや競技継続に重要な役割を果たすことが知られています。
つまり、世界トップを目指す選手に必要なのは、「恋愛をしないこと」ではなく、「恋愛があっても目標を見失わないこと」なのです。
恋愛が人生の中心になった瞬間、それは足かせになるかもしれません。しかし、人生の一部として大切にしながら、自分の夢や目標を追い続けられるのであれば、それは必ずしも障害ではありません。
むしろ、人との関わり方や感情との向き合い方を学ぶ経験として、将来の競技人生にも役立つはずです。
トップ選手たちも人とのつながりを大切にしている
トップ選手のジュニア時代の恋愛事情が詳しく語られることはほとんどありません。
しかし、世界のトップ選手たちを見ると、人とのつながりを大切にしていることは共通しています。
例えば、グランドスラム男子シングルス20勝を誇るロジャー・フェデラーは、長年にわたり妻のミルカさんとともに競技人生を歩んできました。
また、元世界ランキング1位のシュテフィ・グラフとアンドレ・アガシは、テニス界を代表する夫婦として知られています。互いに世界最高峰の舞台を経験しているからこそ、支え合える関係を築いてきました。
現在では、男子ツアーで活躍するアレックス・デミノーと、女子ツアーのケイティ・ボールターも、お互いを応援し合うトップ選手同士のカップルとして知られています。
彼らが示しているのは、
「強い選手は恋愛をしない人ではなく、人間関係を上手にマネジメントできる人」
ということではないでしょうか。
もちろん、これは大人になってからの話です。
しかし、ジュニア期から人との付き合い方を学ぶことは、将来の競技人生にもきっと役立つはずです。
保護者やコーチが心配になったときにできること
恋愛そのものは自然な成長の一部です。
しかし、もし保護者やコーチから見て、「少し恋愛に振り回されているのではないか」と感じる場面があったら、どうすればよいのでしょうか。
まず避けたいのは、
「別れなさい」
「今はテニスだけに集中しなさい」
と頭ごなしに否定することです。
思春期の子どもにとって恋愛は大きな意味を持つため、強く否定されると、かえって保護者やコーチに本音を話さなくなってしまうことがあります。
大切なのは恋愛の有無ではなく、生活や競技への影響を見ることです。
例えば、
- 練習への集中力が大きく下がっている
- 睡眠時間が減っている
- 試合前後の感情の浮き沈みが極端になっている
- テニスの目標より恋愛が優先されるようになっている
こうした変化が見られる場合は、恋愛そのものではなく、生活のバランスが崩れているサインかもしれません。
そんなときは、
「テニスと恋愛、どちらが大事なの?」
と問い詰めるのではなく、
「最近、自分の目標に向かって頑張れていると思う?」
「今の生活は自分が望んでいる状態かな?」
と、自分自身を振り返れる問いかけをしてみることが大切です。
恋愛を否定するのではなく、選手自身が目標とのバランスを考えられるよう支えること。
それが保護者やコーチにできる最も大切なサポートかもしれません。
さらに、恋愛への強い依存の背景には、
- 学校に居場所がない
- テニス以外の友人関係が少ない
- 自己肯定感が低い
- 恋人だけが心の支えになっている
といった要因が隠れていることもあります。
その場合は恋愛をやめさせることよりも、友人関係や家族との会話、テニス以外の世界を広げていくことの方が根本的な解決につながるでしょう。
恋愛に振り回されたとき、どう立て直すか
もし恋愛で気持ちが乱れてしまったら、どうすればよいのでしょうか。
まず大切なのは、日々のルーティンを崩さないことです。
どんな気持ちの日でも、
- 学校へ行く
- 練習へ行く
- トレーニングをする
という基本行動を続けることが回復の助けになります。
また、
- 「全国大会に出たい」
- 「世界を目指したい」
- 「海外遠征に挑戦したい」
といった目標を書き出しておくことも効果的です。
感情は変わりますが、目標は未来につながっています。
大切なのは恋愛ではなく、自分らしい成長
ここまで恋愛について書いてきましたが、もちろん恋愛をすること自体が目的ではありません。
ジュニア期は、人によって興味や関心の向く先が大きく異なります。
テニスに夢中な選手もいれば、勉強に力を入れている選手もいます。友人との時間を大切にする選手もいるでしょう。
恋愛も、その選択肢の一つに過ぎません。
大切なのは、恋愛をしているかどうかではなく、自分自身が充実した毎日を送り、自分の目標に向かって成長できているかどうかです。
恋愛をしている選手も、していない選手も、どちらが優れているということはありません。それぞれが自分らしいペースで成長していくことが何より大切なのです。
まとめ
ジュニア選手にとって恋愛は、必ずしもテニスの敵ではありません。人を好きになることも、人と向き合うことも、人生を豊かにする経験です。
ただし、その恋愛が夢を支える存在になるのか、それとも夢を見失わせる存在になるのか。
そこを考える力こそ、ジュニア期に育てたい大切な人間力なのかもしれません。テニスの成長と同じように、恋愛もまた学びながら上手になっていくものです。
恋愛は悪いことではありません。でも、夢より大きくしてはいけない。それが、競技と恋愛を両立するための大切な考え方ではないでしょうか。
さて、次回は遠征先・合宿で起こりやすい恋愛トラブルと、その向き合い方について、考えていきたいと思います。

引用元
Furman, W. & Shaffer, L. (2003). The Role of Romantic Relationships in Adolescent Development.
Collins, W. A. (2003). More Than Myth: The Developmental Significance of Romantic Relationships During Adolescence.
Smith, A. L., Ullrich-French, S., Walker, E., & Hurley, K. S. (2006). Peer Relationship Profiles and Motivation in Youth Sport.
Spruijtenburg, G. E. et al. (2025). The Key Roles of Teammates, Coaches, and Instrumental Support in Adolescent Sport Participation.

