「本当の強さは、急がず積み上げた“多様な経験”から育ちます。」
「もっと練習したほうが…」「早く専門化したほうが…?」
テニスに夢中なわが子を見て、そう考える保護者の方は少なくありません。
しかし、スポーツ医学の権威たちの研究は、“早すぎる専門化”がケガや燃え尽き、競技寿命の短縮につながることを、驚くほど一致した結果で示しています。
今回は、米国の整形外科医 Laura Thurber らによるジュニアテニス特化の総説(2025年)をもとに、子どもがテニスを長く・健康に続けるための本質を読み解きます。
「早期専門化」はケガにつながるのか?
本総説は、これまでの研究を網羅的にまとめていますが、その中心となるのが、ジュニアアスリートのケガ研究で世界的に知られる ニール・ジャヤンティ(Neeru Jayanthi)医師らの一連の大規模調査です。
ジャヤンティ医師(2015, 2020)は、
・専門化した子は多競技の子より30%以上ケガが多い
・年齢や練習量を調整しても、“専門化そのもの”が独立したケガリスクである
と明確に報告しています。
さらに、
若年アスリートのスポーツ外傷の大規模調査で知られるダニエル・ベル(Daniel Bell)は、高校生1544名の追跡研究で専門化レベルが高いほどケガが50〜85%増加することを示しました。
どの研究も結論は同じ——
「早く1つに絞るほど、ケガは増える」という揺るぎない事実です。
テニスは“早期専門化の影響を受けやすい”スポーツ
テニスに特化したデータも明確です。
ジャヤンティ医師(2011)は、全米500名のジュニアを調査し、
・平均10.4歳で専門化
・専門化組のほうがケガ・医療棄権が多い
という結果を示しました。
一方、
テニスの障害研究で国際的に知られるジュニアの肩・腰の障害研究を牽引するヨハンソン(Fredrik Johansson)は、練習量の急増が肩痛・腰痛に強く関連することを報告。
さらに、
ジュニア大会の棄権データ研究で有名なジャヤンティ医師(2009)は、5試合目以降で棄権が急増することを示し、“試合過多”がどれほど体に負担になるかを明らかにしました。
これらはすべて、「テニスは若いうちから負荷が大きく、専門化の影響が強く出る」という証拠です。
壊れるのは体だけじゃない ― 燃え尽きの科学
心理的側面の研究では、アスリートの燃え尽き研究の第一人者 マイケル・レデーキ(Michael Raedeke) と
アスリート心理学で知られる アラン・スミス(Alan Smith)が開発した「Athlete Burnout Questionnaire(ABQ)」が基盤になっています。
ABQを用いた ジュスティ(Giusti, 2020) のメタ分析では、専門化した若いアスリートほど
・情緒的・身体的疲労
・成果実感の低下
・スポーツへの嫌悪感が有意に高いこと
が明らかにされています。
また、
ジュニアテニスの心理研究で知られる ゴールド(Gould, 1996)も、テニス専門化の子どもが“テニスを嫌いになりやすい”傾向を示しました。
一方、
ジュニアのQOL研究で知られる パテル(Patel, 2018) は、適切なサポートがあればQOLが保たれる可能性も指摘しており、「専門化=悪」ではなく、“早すぎる専門化+過度な負荷”が問題の本質であることが分かります。
世界トップ選手ほど“遅く専門化した”という事実
競技力の視点で注目すべきは、“エリート選手の発達研究で国際的に知られる” アンドレアス・ギュリッヒ(Arne Güllich)らによるメタ分析(2022)です。
10,000名規模のデータから導き出された結論は、世界トップ選手ほど、幼少期には多競技を経験し、専門化は遅かったというもの。
さらに
テニス界では、WTAの年齢制限の科学的評価で著名な オティス(Carol Otis) による25年研究があり、1994年のWTA年齢制限導入後、女子選手の平均キャリアが約2年伸びたという衝撃的な結果が示されています。
つまり、早く燃え尽きる道ではなく、長く続けられる道のほうが、結局は強くなるということです。
「長く強くなる」ためのジュニアテニス推奨ガイドライン
このレビューの優れている点は、研究の“総まとめ”に終わらず、年齢別の具体的な推奨値を提示しているところです(Thurber ら, 2025)。
▼ 科学的根拠に基づく主な推奨
・専門化は12歳以降
・週の練習時間は「年齢(歳)」以下
(例:10歳なら週10時間以内)
・週12時間以内のテニス練習
・週2時間以上のケガ予防トレーニング(INT)
・年間試合数は40未満
・大会は月2回以内・年間12大会以内
・オフシーズンには別スポーツ推奨
さらに、ジャヤンティ医師ら(2021, 2022)が提唱した“負荷耐性に応じて子どもを3タイプに分類するモデル”
(負荷に強い・普通・弱い)も紹介されており、一人ひとりに合わせた育成が可能になります。
子どもの未来のために「急がない勇気」を
今回の総説は、スポーツ医学の確かなデータと、先人たちの研究が一致して示しています。
「早く強く」ではなく「長く強く」こそが、子どもの未来を最大化する道である。
テニスを楽しむ時間が長く続けば、その分だけ伸びる可能性も広がります。
今日の練習量や試合数を少し見直すことが、未来の大きな成長につながるかもしれません。

