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肩の力は、痛くなる前から落ちている|ジュニアの4人に1人が肩を傷めた2年間でわかったこと

肩の力は痛くなる前から落ちている
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📝 一言メモ:「痛い」と言い出したときには、もう始まっている——。この記事は、痛みが出る“前”に気づくための話です。

12〜18歳のテニス選手350名を2年間追いかけた研究で、25.1%——およそ4人に1人が肩を傷めていました。

しかも一番のリスク要因になっていたのは、本人も周りも気づきにくい“肩の力のバランス”。それは痛みが出るずっと前から、静かに崩れていました。

サーブの負荷を扱った最新レビューと合わせて、家庭で気づけるポイントに翻訳してお届けします。

目次

まず数字から:2年で4人に1人

今回のメインの素材は、2025年7月に学術誌『Orthopaedic Journal of Sports Medicine』で公開された研究です。12〜18歳のテニス選手350名(男子210名・女子140名)を24か月にわたって追跡し、肩の傷害が起きるかどうかを毎月記録した“前向き”の調査です。

「ケガをした子に後から話を聞く」のではなく、「これから先を一緒に追いかける」形なので、リスク要因を探るうえでは信頼度の高いつくりです。

結果、2年のあいだに88名(25.1%)が肩の傷害を経験しました。ここで大事なのは、この研究がいう「傷害」の中身です。

この研究の「肩の傷害」の定義
48時間以上の練習離脱 + 医療機関の受診を要した肩の痛み・機能障害

つまり「ちょっと張ってる」「少し痛い」は含まれていません。それなりに重いものだけを数えて、4人に1人ということです。

誰が危なかったのか

研究チームは、練習量や身体特性、心理面まで幅広く測ったうえで、どの要因が肩の傷害と結びついていたかを統計的に分析しました。主なものが下の表です。

リスク要因リスクの上がり方
肩の外旋/内旋の筋力バランスの崩れ約3.1倍
肩甲骨の動きの異常(スキャプラ・ディスキネジス)約2.8倍
競技不安(試合への強い緊張)が高い約2.2倍
年齢が上がる(1歳ごと)約1.4倍
テニス歴が長い(1年ごと)約1.3倍
週あたりの練習時間が長い(1時間ごと)約1.2倍

※「◯倍」は統計上のハザード比。その要因があると、追跡期間中にケガが起きるペースが◯倍になったという意味で、「必ずそうなる」という話ではありません。

目を引くのは、いちばん上の筋力バランスが突出していることです。練習時間の長さ(約1.2倍)より、ずっと大きい。「たくさん打っているかどうか」より「肩がどういう状態で打っているか」のほうが効いていた、と読めます。

いちばんの警告:それは、痛くなる前から進んでいる

この研究でもっとも注意喚起したいのが、ここです。

肩には、腕を内側にひねる力(内旋=ボールを打ち出す方向の力)と、外側にひねる力(外旋=振り出した腕にブレーキをかける力)があります。テニスのサーブやスマッシュは前者ばかりを使うので、放っておくとアクセル側だけが強くなり、ブレーキ側が相対的に置いていかれる——これが「バランスの崩れ」です。

24か月の追跡で実際に起きていたのは、こういうことでした。

外旋の力が、内旋に対して平均 8.3% 低下。
この比率が15%を超えて落ちた選手は、傷害リスクが約1.9倍。

ポイントは、この低下に痛みという“お知らせ”がついてこないことです。ある日を境に壊れるのではなく、2年かけて少しずつ傾いていく。だから「今日は痛くないから大丈夫」は、この問題に対しては答えになっていません。

逆にいえば、これは測れば見えるタイプのリスクでもあります。定期的に見ていれば、痛みが出る前の段階で気づけます。

意外な結果:体幹は伸びていたのに、肩には効いていなかった

もうひとつ、指導の現場にとって重要な結果があります。

追跡した2年間で、選手たちの体幹の安定性(プランクで測定)は平均14.2%も改善していました。ところが、その改善は肩の傷害リスクとは関連していなかったのです。

これは「体幹トレは無駄」という話ではありません。体幹は下半身から生まれた力を腕へ受け渡す土台で、サーブそのものの質にも関わります。ただ、体幹をやっているから肩も守られている、とは言えないということです。肩には、肩のための対策が別に要る。

◎あわせて読みたい
以前の記事「練習量を増やした「翌週」が危ない」では、体幹+肩のインナーマッスル(回旋筋腱板)をセットで行うと使いすぎによるケガが26%減った、という別の研究を紹介しました。今回の結果と合わせると、効いているのは“肩の分”のほうだった可能性があります。体幹だけで終わらせず、肩のメニューを必ず添えてください。

では、その負荷はどこから来るのか

ここまでが「誰が危ないか」の話です。次は「なぜ肩に負担がかかるのか」。ここで2つ目の研究が登場します。

2026年4月に『Sports Medicine – Open』で公開された、サーブ中の関節にかかる負荷を扱ったレビューです。ITF(国際テニス連盟)とオランダテニス協会で長年スポーツ医学に携わってきたBabette Pluim博士が共著に入っています。

このレビューが、肩・ひじ・手首・腰への負荷を左右する要因として挙げているのが次の4つです。

①運動連鎖——力が「どこから」来ているか

いいサーブは、脚 → 体幹 → 肩 → ひじ → 手首と、下から上へエネルギーが流れていきます。

この流れがどこかで途切れると、足りない分を腕が力ずくで埋めにいく。同じ球速を出していても、腕にかかる負担はまるで違ってきます。「腕だけで打っている」は、フォームの好みの話ではなく負荷の話です。

②技術エラー——「ウェイターサーブ」

ジュニアによく見られるのが、通称ウェイターサーブ。トロフィーポジションで手のひらが上を向き、お盆を持ったウェイターのような形になるフォームです。レビューは、こうした技術エラーを関節負荷を高める要因として挙げています。

ここが今回いちばん伝えたい発想の転換です。ウェイターサーブの矯正は「フォームが美しくないから」直すのではなく、ケガを防ぐために直す。見た目の問題ではなく、肩とひじに余計な負担がかかっているから直す、という話なのです。

③疲労——同じフォームでも、負荷は変わる

レビューは疲労を明確な要因として挙げています。疲れてくると運動連鎖が乱れ、下からの力が使えなくなって腕頼みになりがちです。

つまり練習の終盤に疲れた状態でサーブを打ち込む時間が、一日のなかでいちばん危ない可能性がある。「最後にサーブ100本」は、順番として見直す価値があります。

④ラケット——用具は「負荷の設定」

ラケットの仕様(重さ・バランス・ガットのテンションなど)も負荷を左右する要因に挙がっています。成長期の子は、体格も筋力も半年で変わります。ラケット選びは「振りやすさ」だけでなく「体にかかる負担」の観点でも見直す——一度その視点を持っておくと、買い替えのタイミングでの判断が変わります。

逆に、影響がなかった/まだわかっていないこと

スタンス(フット・アップ/フット・バック)…負荷への影響は見られなかった
球種(フラット/スライス/キック)、レッグドライブの強さバックスイングの形(フル/コンパクト)…まだ結論が出ていない

「キックサーブは肩に悪い」といった話を耳にすることがありますが、少なくとも現時点の研究では、そう言い切れるだけの根拠は揃っていません。

緊張しやすい子ほど、肩を傷めていた

最初の表に戻ります。競技不安の高さが、肩の傷害リスク約2.2倍と結びついていました。心理面の指標が、身体のケガを2年先まで予測していたことになります。

この結果は、当サイトで以前紹介した「「期待」が試合前の子どもを固くする」の続きとして読むことができます。

あの記事では、保護者の強い期待が子どもの有能感を削り、試合前の不安を高めることを紹介しました。今回の研究は、その不安が、身体の側にも表れうることを示しています。

なぜ不安がケガにつながるのか、その仕組みは今回の研究が検証したものではありません。一般には「緊張で余計な力が入る」「フォームが硬くなる」「痛みを言い出せず我慢してしまう」といった経路が考えられますが、いずれもこの研究が確かめた内容ではなく、可能性の話です。

また、これは「メンタルが弱い子はケガをする」という意味ではまったくありません。緊張しやすいこと自体は責められるものではなく、むしろ周りが気づいて支えるべきサインだ、と受け取ってください。

家庭でできること 4つ

①肩の“ブレーキ側”を鍛える時間をつくる

打つ練習は、放っておいても内旋(アクセル側)ばかりを鍛えます。だからこそ、外旋(ブレーキ側)を意識的に足す。チューブやセラバンドを使った肩の外旋運動を、ウォームアップやクールダウンに10分でも組み込むだけで、放置による“傾き”への手当てになります。

※種目・負荷は年齢と体格しだいです。フォームが崩れた状態でやると逆効果なので、最初はトレーナーや理学療法士に見てもらうのが確実です。

②「去年の自分」と比べる習慣をつける

今回の研究の肝は、低下が2年かけて起きたことです。1回測って終わりでは意味がありません。シーズン初めに基準を記録し、半年〜1年ごとに同じ条件で見比べる。数値の絶対値より、本人の中での変化の向きが大切です。

※家庭で筋力比を正確に測るのは困難です。スポーツ整形やトレーナーのいる施設でのメディカルチェックを、年1回でも入れておくと安心です。

③疲れた終盤のサーブ連打を、練習の順番から見直す

疲労は負荷を変える要因です。サーブ練習を「最後の余り時間」に置かない——これはお金も道具もかからず、今日から変えられることです。体が新鮮なうちにサーブを打ち、疲れてきたらフォームが保てる本数で切り上げる。「あと10本」より「今日はここまで」のほうが、来シーズンのためになります。

④「フォーム直し=ケガ予防」だと家庭でも共有しておく

コーチからサーブのフォームを直されたとき、子どもは「今のままじゃダメだと言われた」と受け取りがちです。そこで家庭から「見た目じゃなくて、肩を守るために直してるんだよ」と一言添えるだけで、受け止め方が変わります。フォーム修正はダメ出しではなく、長くテニスを続けるためのメンテナンスです。

読むときの注意
肩の追跡研究は単一のコホートを対象とした観察研究で、著者自身も「初期の傷害定義が十分に精密でなかった」「自己申告によるリコールバイアス」「受傷時のリアルタイムな評価がない」といった限界を挙げています。関連が見られたからといって、それが原因だと確定したわけではありません。

また、サーブのレビューは系統的レビューではなくナラティブレビュー(著者が文献を選んで整理する形式)で、著者らはジュニア・女子・下位レベル・車いす選手のデータが不足していることを今後の課題として明記しています。

つまり「関節にかかる負荷」の研究の多くは成人男性エリートを対象としており、ジュニアにそのまま当てはまるかどうかは、まだ検証の途中です。

数字はあくまで“傾向”として受け取ってください。肩の痛みが続く・強い場合は自己判断せず、スポーツドクターや理学療法士にご相談を。

指導者・コーチ向けメモ

  • 外旋/内旋の筋力比を、シーズンの定点観測項目に入れる
    今回の研究で最大のリスク要因(約3.1倍)。可動域(GIRD)のチェックとは別物なので、両方見るのが理想です。▶ 運用のポイント
    シーズン初めに基準値を取る。ハンドヘルドダイナモメーターがあれば外旋・内旋の最大筋力を、なければ提携先のメディカルチェックで年1回。
    ・見るのは絶対値より前回からの変化の向き。研究では2年で外旋が相対的に8.3%低下し、15%超落ちた選手のリスクが約1.9倍でした。
    ・成長期は身長・体重が動くため、左右差と“比率”で見るほうがブレにくい。
    注意:測定は気づきのための道具であって診断ではありません。大きな左右差や痛みを伴う場合は医療者へ。
  • 体幹メニューに、必ず肩のメニューを添える
    今回の研究では体幹が14.2%改善しても肩の傷害リスクとは無関連でした。体幹単独では肩は守れないという前提でメニューを設計してください。▶ 設計の考え方
    ・体幹は「力を伝える土台」として引き続き重要。ただし肩の傷害予防の担当ではないと切り分ける。
    ・肩は回旋筋腱板のエキセントリック(戻す局面をゆっくり)+肩甲骨周囲筋をセットで。
    ・「時間が余ったらやる」ではなく、時間割に固定する。継続率がまるで変わります。
  • 肩甲骨の動きを目視でスクリーニングする
    スキャプラ・ディスキネジスは約2.8倍のリスク要因。特別な機器がなくても、動きの観察である程度気づけます。▶ 現場での見方
    ① 選手の背中側から、両腕をゆっくり上げ下げさせる(数回繰り返す)。
    ② 見るのは左右対称に動いているか。片方だけ肩甲骨の内側の縁が浮き上がる、動きがガクッと引っかかる、上げ下げのタイミングがずれる——これらがサイン。
    ③ 疲れると出やすいので、練習後にも一度見ると拾いやすい。
    注意:あくまでスクリーニング。気になる動きがあれば理学療法士へつなぐ判断材料として使ってください。
  • サーブ練習を練習の“終盤”から外す
    疲労は関節負荷を変える要因として挙げられています。疲れた状態での連続サーブは、量の問題ではなく質の問題としてリスクになります。▶ 組み替えのヒント
    ・サーブはウォームアップ直後〜前半に。技術的な修正を入れるならなおさら前半に。
    ・本数ではなくフォームが保てているかで切り上げる。トロフィーポジションが崩れ始めたら終了のサイン。
    ・大会前の「最後に100本」は、前半に分散させるだけでリスクの質が変わります。
  • ウェイターサーブの矯正を「ケガ予防」の文脈で伝える
    選手にも保護者にも、見た目ではなく負荷の話であることを最初に共有しておくと、修正が受け入れられやすくなります。技術指導と傷害予防は同じ話だ、という前提を現場で揃えておきたいところです。
  • 競技不安の高い選手を、フィジカルのリスク管理の対象としても見る
    約2.2倍という数字は、メンタルとフィジカルを別々に管理する運用への問いかけです。緊張の強い選手には、負荷管理とセルフチェックをより丁寧に。(※ただし仕組みは未解明であり、選手本人に「緊張するからケガをする」と伝えるのは避けてください。)

肩の傷害は、ある日突然やってくるように見えて、実は2年がかりで準備されていた——今回の研究がいちばん強く伝えているのは、そこだと思います。裏を返せば、それだけ気づくための時間はあるということでもあります。

痛くなってから慌てるのではなく、痛くない今のうちに測っておく。それが、来年も再来年もコートに立ち続けるための、いちばん静かで確実な準備です。

参考文献
① Xie P. Risk Contributors for Shoulder Injuries Among Adolescent Tennis Participants: A Prospective Group Study.
Orthopaedic Journal of Sports Medicine, 2025年7月14日, 13(7).(12〜18歳のテニス選手350名を24か月追跡した前向きコホート研究/エビデンスレベル2。主要結果:肩傷害の発生 88名・25.1%、外旋/内旋筋力比の不均衡 HR 3.12[95%CI 1.63–5.98]、肩甲骨運動異常 HR 2.76[1.46–5.22]、競技不安 HR 2.15[1.24–3.73]、週練習時間 HR 1.18[1.09–1.28]。24か月で外旋筋力が内旋比8.3%低下、15%超の低下で HR 1.89。体幹安定性は14.2%改善したが肩傷害とは無関連 HR 0.93, p=.42)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12260309/

② Martin C, Touzard P, Fourel L, Pluim BM. Tennis Serve Biomechanics, Joint Load Mechanics and Overuse Injuries: A Narrative Review.
Sports Medicine – Open, 2026年4月10日, 12:42.(PubMed/Google Scholar/ScienceDirect/SPORTDiscusを検索し、3Dモーションキャプチャまたは映像分析でサーブ中の関節負荷を評価した研究を統合したナラティブレビュー。共著にBabette M. Pluim博士〈ITF/オランダテニス協会〉。負荷を左右する要因として技術レベル・運動連鎖・技術エラー・タイミング・疲労・ラケット仕様を特定。スタンスの影響は認めず、球種・レッグドライブ・バックスイング様式は未解明。ジュニア・女子・下位レベル・車いす選手のデータ不足を課題として明記)
https://link.springer.com/article/10.1186/s40798-026-01015-y

本記事は上記研究をわかりやすく紹介するもので、医学的診断・治療を目的としたものではありません。本文中で「推測」と明記した箇所は、研究で直接検証された内容ではなく、競技特性からの解釈です。肩の痛みや不調がある場合は医療機関にご相談ください。

肩の力は痛くなる前から落ちている

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